「反戦出版」書評シリーズ② 『語りつぐナガサキ――原爆投下から70年の夏』
 解説:柳原滋雄(ジャーナリスト)

『語りつぐナガサキ――原爆投下から70年の夏』(創価学会長崎平和委員会)

被爆体験を継承するための重要な一書

 2015年に新たに上梓された『語りつぐナガサキ――原爆投下から70年の夏』は、前年に出版された『男たちのヒロシマ――ついに沈黙は破られた』につづく長崎編と呼べるものだ。
『ヒロシマ』は表題のとおり、男性のみによる証言集だったのに対し、長崎編には男性・女性の体験から成っている。 続きを読む

【書評】現代美術家・宮島達男の思想的背景がここにある
 解説:茂木健一郎(脳科学者)

『芸術論』(宮島達男著)

 私がこの本の著者の宮島達男さんの作品を初めて見たのは、東京都現代美術館だったと思う。壁の上に大きな四角があり、その中で「1」から「9」の数字が点滅していた。その不思議なリズムに圧倒されて、立ち去ることができなかった。
 見た瞬間、そこには何かがあると確信される。すぐれた芸術は、「気配」として立ち上がる。そして、宮島さんの場合、背後にあったのは「生命」に対する哲学であり、また人間に向けての「愛」であった。 続きを読む

【書評】政治・宗教を熟知した著者による公明党論の決定版
 解説:吉田徹(北海道大学大学院教授)

『佐藤優の「公明党」論』(佐藤 優 著)

 最近になって、公明党について少なくない書籍や論評が刊行されるようになった。書籍では薬師寺克行『公明党』、中野潤『創価学会・公明党の研究』などがあり、雑誌でも『中央公論』や『週刊ダイヤモンド』が公明党や創価学会について特集を組んだ。 続きを読む

【書評】今の時代へのふくよかな期待と夢に充ちた「予感の書」
 解説:茂木健一郎(脳科学者)

『そして、暮らしは共同体になる。』(佐々木俊尚著)

 季節が変わり、例えば春になる時、その兆しは、さまざまなところに表れる。空気のやわらかさだったり、膨らんでいく木の芽だったり、あるいは鳥のさえずり。そのようなシグナルを受け取って、私たちは時が移ろい行くのを知る。

『そして、暮らしは共同体になる。』は、ジャーナリストの佐々木俊尚さんが、私たちの生活のあり方、考え方が変化していくその兆しを、食べること、住まうこと、つながることなどさまざまな分野における兆候からとらえた本である。 続きを読む

【書評】人に無限の可能性があることを気づかせる一書
 解説:姜尚中(東京大学名誉教授)

『最高の結果を引き出す質問力』(茂木健一郎著 )

 本書を読み進むうちに閃いたのは、夏目漱石の名作、『三四郎』の中の台詞である。「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……日本より頭の中の方が広いでせう。……囚われちゃ駄目だ」。台詞の主は、昼行灯のように茫漠としていながら、悠揚迫らない風情の広田先生である。 続きを読む