カテゴリー別アーカイブ: 書評

【書評】創価大学文学部教授陣による好著
 解説:本房 歩(ライター)

『ヒューマニティーズの復興をめざして』(山岡政紀/伊藤貴雄/蝶名林亮 編著)

人文系学問は不要なのか?

 2015年6月8日に文部科学省が発した通達「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」は、社会に少なからぬ波紋を広げた。
 とりわけ衝撃を持って受け止められたのが次の箇所だった。

 特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。

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【書評】全国100書店を歩いて見えてきたもの
 解説:本房 歩(ライター)

『「本を売る」という仕事』(長岡義幸著)

「幸福書店」の閉店

 この2月、〝本〟にまつわるニュースがいくつか駆けめぐった。
 東京・代々木上原駅前の書店「幸福書房」が、2月20日に閉店した。1977年に創業し、80年から同地に移転。近隣に住む作家の林真理子氏は、駅前にこの本屋があるのを見たことが、ここに転居を決めた理由の一つだったと述べている。
 林氏のブログなどにたびたび登場するほか、ここで林氏の本を買うと書店が預かって林氏のサインをもらっておいてくれることもあり、真理子ファンの〝聖地〟でもあった。
 家内経営していくには経営者が高齢になったことや、テナントとの契約が切れたことなどが閉店の主な理由には挙げられているが、やはりなんといっても書店の経営そのものが厳しい時代に入っているのだ。 続きを読む

【書評】福岡生命理論は組織論、芸術論へと展開する
 解説:本房 歩(ライター)

『動的平衡3』(福岡伸一著)

「生命」とは何か

 生物学者・福岡伸一氏の名著『動的平衡』シリーズの第3弾
 2009年に刊行された『動的平衡』、11年に刊行された『動的平衡2』は、最先端の生命科学の知見と芸術への深い教養、巧みな譬喩に満ちた流麗な文体が話題となり、累計25万部を超すベストセラーとなってきた。
 その〝福岡生命理論〟は、いよいよこの第3弾で、組織論、芸術論にも拡張していく。 続きを読む

【書評】世界最大の叙事詩
 解説:本房 歩(ライター)

『マハーバーラタ』(上)(C・ラージャーゴーパーラーチャリ著/奈良 毅、田中嫺玉※訳)

壮大な空想の戦闘記

 古代インドで成立した「マハーバーラタ」は、10万余の対句から構成され、世界最大の叙事詩と言われている。
 古代ギリシャの「イーリアス」「オデュッセイア」と共に〝世界三大叙事詩〟と称えられ、インドにおいては「ラーマーヤナ」と並ぶ二大叙事詩とされてきた。

 物語は、パーンドゥ家とクル家の王子たちによるバーラタ王朝内の争いを軸に、数多くの人物の性格描写や事件の記述を通じて、人間の強さと弱さ、高貴さと卑劣さ、美しさと醜さなど、人間にまつわる古くて新しい普遍的なテーマを展開させている。(第三文明選書『マハーバーラタ(上)』訳者まえがき)

 ストーリーの概要を書くだけでも何千字も費やしそうな大長編だ。とくに中盤から始まる大戦争の描写は、昔も今も人々の想像力をかき立て、強い衝撃を与えてきた。 続きを読む

【書評】ホロコーストの真実をめぐる闘い
 解説:本房 歩(ライター)

『否定と肯定』(デボラ・Eリップシュタット著/山本やよい訳)

法廷闘争のリアルな記録

 本書(『否定と肯定』)を原作とした同名の映画が、日本でも2017年12月から封切られた。その公開に合わせて同年11月に刊行された邦訳だ。
 ナチスによるホロコースト(大量虐殺)があったことを、はたして司法の場で証明できるか。本書は、実際にイギリスでおこなわれた1779日におよぶ法廷闘争のノンフィクションである。
 著者であるデボラ・E・リップシュタットはユダヤ人女性。父親はドイツが第三帝国となる前にアメリカに亡命し、母はカナダ生まれ。
 彼女は、ニューヨークのマンハッタンで育った。現在はジョージア州にあるエモリー大学で、現代ユダヤ史とホロコースト学を教える教授だ。 続きを読む