カテゴリー別アーカイブ: 書評

【書評】認知症と人間との関わりに新たな光を照らす
 解説:茂木健一郎(脳科学者)

『脳科学者の母が、認知症になる』(恩蔵絢子著)

 脳科学において、認知症は重要な研究テーマである。その発症のメカニズム、進行を止める方法、脳の回路が受ける影響などに関心が集まる。高齢化社会において、認知症を理解することは、脳科学の最も大切な課題の一つと言ってよい。

 とはいえ、脳科学者である本書の著者にとっても、自分の母親が認知症になるというのは、予想していなかったことだろう。戸惑い。不安。対策の模索。自分の家族が認知症になったときの感情の揺れや、気持ちの動きは、脳を研究する科学者であっても一般の人々と変わらない。 続きを読む

【書評】なぜ、これほどまでに強いのか?
 解説:本房 歩(フリーライター)

『創価学会』(田原総一朗著)

世界最大の仏教運動

 20世紀を代表する歴史家アーノルド・J・トインビーが、英語版『人間革命』にわざわざ序文を寄せ、

 創価学会はすでに世界的出来事である。

と書いたのは1971年のことだ。
 当時、創価学会は前年に750万世帯に達したばかりであり、いくつかの国に法人化された組織があったとはいえ、まだSGI(創価学会インタナショナル)も結成されておらず、公明党も結党して10年にも満たない野党だった。
 あれから半世紀。今日、創価学会の存在感と影響力は、往時とは比較にならない大きさになっている。 続きを読む

【書評】終わりのない旅の記録
 解説:高橋伸城(美術史研究者)

『極北へ』(石川直樹著)

「今見ている世界」の外へ

 大学生になった1997年の夏、著者はカヌーを背負ってアメリカ大陸へと向かった。
 多くの冒険家たちを魅了してやまないユーコン川を下るためであった。
 カナダ西部の氷河に始まるこの細い流れは、アラスカの大地をヘビのようにうねりながらベーリング海へとそそぐ。
 極北へと何度も引き寄せられるきっかけともなったこの挑戦。出発から到着まで、すべてを一人でやり遂げた。 続きを読む

【書評】アメリカ・ルネサンスの眩い光彩
 解説:本房 歩(ライター)

『詩集 草の葉』(ウォルト・ホイットマン著/富田砕花訳)

36歳のデビュー作

 ウォルト・ホイットマンは、およそ200年前の1819年、農夫ウォルター・ホイットマンの次男として、ニューヨーク州ロングアイランドに生まれた。
 じつは父親が自分と同じ名前を彼につけたので、正しくはウォルター・ホイットマン・ジュニアということになる。
 父親はまもなく大工に転身したものの一家の生活は苦しく、ウォルトも11歳から弁護士事務所の雑用係として働きはじめる。その後、見習いを経てニューヨークで植字工となるが、大火で職場の印刷所を失う。故郷に戻って小学校の教師をし、再びニューヨークに戻るとジャーナリストや印刷業などで身を立てていた。 続きを読む

【書評】イノウエ・ブラザーズの挑戦
 解説:本房 歩(ライター)

『僕たちはファッションの力で世界を変える』(井上 聡/井上清史/石井俊昭著)

「神々の繊維」

 2000年代に入って注目されるようになった「ソーシャル・デザイン」。不公正や不条理、社会問題をクリエイティヴな発想によって解決していこうという取り組みは、今や世界的な潮流になりつつある。
 それは、ソーシャル・ネットワークの普及によって、これまでにない形で人々がフラットにつながり、多様な情報が共有される時代がはじまったことと軌を一にしている。
 井上聡・清史の兄弟がアートスタジオ「ザ・イノウエ・ブラザーズ」を設立したのは2004年。07年から、南米アンデスの先住民と協働してアルパカの毛を使ったニット製品を作りはじめた。 続きを読む