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【書評】「脳」という視点で「現代の黒船」の対応を考える
 解説:宇野常寛(評論家)

『新しい日本の愛し方』(茂木健一郎著)

 茂木健一郎という知性が日本社会に与えたインパクトを一言で言えば、それは「こころ」は「記述」できるという前提で人間に、文化に、そして社会にアプローチしたことに尽きるだろう。

 文学的な「内面」ではなく、特定のプログラミングによって動く「脳」を前提にした思考は、時に淡白な人間観を生むという批判を呼ぶ一方で確実に多角的で明晰な人間と社会を語る言葉を獲得し、支持を集めていった。 続きを読む

【書評】女性俳人たちのめくるめく恋愛俳句の世界
 解説:加藤真理(編集者)

『胸に突き刺さる恋の句 女性俳人百年の愛とその軌跡』(谷村鯛夢著)

 いま、俳句人口1000万人、といわれる。各種の俳句大会や句会を見ても主力は女性で、専門俳人団体の会員も約65%が女性とのこと。女性俳句大隆盛、といってさしつかえないだろう。

 もともと、男は俳句、女は短歌と言われていたものだが、この女性俳句大隆盛はどのようにしてもたらされたのか。 続きを読む

【書評】異領域の資料をもとに歴史の真実に迫る
 解説:木村 礼(文筆家)

『家光大奥・中の丸の生涯 狩野探幽と尽くした徳川太平の世』(遠藤和子著)

 大奥といえば、誰もがすぐ思い浮かべる人物がいる。3代将軍家光の乳母、春日局だ。

 この春日局から「心の正しくない気違い」とののしられた家光の正室で、不仲のため結婚してほどなく別居した場所から「中の丸殿」と呼ばれた孝子については、その名を知るものは多くはないだろう。孝子は越中の国主・佐々成政の娘、岳星院と鷹司信房の子で、鷹司家は公家五摂家の1つである。 続きを読む

【書評】戦争体験を後世に残す、平和教育の真の教科書
 解説:森田 実(政治評論家)

『西部ニューギニア戦線 極限の戦場――飢餓地獄を彷徨した将兵の証言』(久山 忍著)

 最初に、戦争体験者の証言を記録するという崇高なる活動に取り組まれている著者の久山忍氏に深く敬意を表さなければならない。

 じつを申せば私は戦後67年余を戦争体験者から生の体験を聞き、これを記録し、戦争の真実を後世に残したいと考えつつ生きてきた。旧制中学、新制高校の頃から多くの戦争体験者から話を聞いた。終戦から数年後に大学に入学して以後もこの活動を続けた。 続きを読む

【書評】社会保障のあり方を考えるヒント
 解説:赤木智弘(フリーライター)

『14歳からわかる生活保護』(雨宮処凛著)

 タイトルには「14歳からわかる」とあるが、内容は決して子どもに向けたものではない。大人でも普通に知らない生活保護の実態を、長く貧困の現場で、直接さまざまな立場の人たちと関わってきた著者が、14歳が読んでもわかるように噛み砕きながら論じている。

 噛み砕いているといっても、内容は決してやさしいものではない。冒頭に描かれるのは、貧困と障害を負った妹を抱えながら奮闘するも、十分な社会保障を受けられず共に部屋で亡くなる姉妹の悲しく重苦しい現実である。 続きを読む