【書評】介護という「時限発火物」を抱えている時代に必読
 解説:佐々木俊尚(ジャーナリスト)

『介護破産――働きながら介護を続ける方法』(結城康博/村田くみ著)

 介護は突然やってくる。昨日まで元気だった親が、突然転んでけがをして入院し、そのまま要介護になってしまうというようなことはよくある。そういう時に、子どもはどうすればいいのか。介護するために仕事を辞めなければならなくなる人は少なくなく、このような「介護離職」は総務省の数字によると年間10万人を超えているという。

 本書は、介護離職の先にどのような事態が待ち受けているのかを克明にルポしながら、それを回避するためにはどうすればよいのかをきわめて実用的な視点で指南した1冊だ。著者は元全国紙記者のフリージャーナリストで、みずからも母親の介護で離職した経験を持つ。「貯金を使い果たし、私自身が『介護破産』の一歩手前まで行った」と自身が吐露するだけあって、全編にわたって当事者としての切実さにあふれている。

 描かれている実例は深刻だ。福島県のスキーリゾートで働いていた52歳の男性調理師は、認知症の父を介護するため仕事を辞め、東京の実家に戻った。だが新しい職場では、介護のため定時に帰宅しようとすると上司にとがめられ、精神的に追い詰められて退職を余儀なくされる。眠れない日々で、揚げ句に通勤の途中にぼんやり自動車を運転していて自転車とぶつかってしまう。たびたび自殺願望を抱くようになり、何とか踏みとどまっているけれども、体調を崩したまま今も仕事ができないでいる。

 こういう事態をどう防ぐか。お金はひとつの手立てだが、日本社会に貧富の差が開いていく中で、老後の貯蓄額も格差化が進んでいる。少子高齢化で国や自治体を頼ることも難しくなってきている。これからの高齢化社会の設計を考えると、だれもが途方に暮れてしまうのだ。

 なんらかの自己防衛をしていくしかない。著者は「介活」で介護崩壊を防ごう、と呼びかけている。いずれ親や自分自身が要介護になることを想定し、事前にすべき準備内容が詳細に紹介されている。日本人のほとんどがこの介護という「時限発火物」を抱えている時代に、この本は必読と言わざるをえない。


『介護破産――働きながら介護を続ける方法』
『介護破産――働きながら介護を続ける方法』
結城康博/村田くみ著
KADOKAWA
税抜価格 1,300円+税
発売日 2017年4月14日