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【書評】終わりのない旅の記録
 解説:高橋伸城(美術史研究者)

『極北へ』(石川直樹著)

「今見ている世界」の外へ

 大学生になった1997年の夏、著者はカヌーを背負ってアメリカ大陸へと向かった。
 多くの冒険家たちを魅了してやまないユーコン川を下るためであった。
 カナダ西部の氷河に始まるこの細い流れは、アラスカの大地をヘビのようにうねりながらベーリング海へとそそぐ。
 極北へと何度も引き寄せられるきっかけともなったこの挑戦。出発から到着まで、すべてを一人でやり遂げた。 続きを読む

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【書評】アメリカ・ルネサンスの眩い光彩
 解説:本房 歩(ライター)

『詩集 草の葉』(ウォルト・ホイットマン著/富田砕花訳)

36歳のデビュー作

 ウォルト・ホイットマンは、およそ200年前の1819年、農夫ウォルター・ホイットマンの次男として、ニューヨーク州ロングアイランドに生まれた。
 じつは父親が自分と同じ名前を彼につけたので、正しくはウォルター・ホイットマン・ジュニアということになる。
 父親はまもなく大工に転身したものの一家の生活は苦しく、ウォルトも11歳から弁護士事務所の雑用係として働きはじめる。その後、見習いを経てニューヨークで植字工となるが、大火で職場の印刷所を失う。故郷に戻って小学校の教師をし、再びニューヨークに戻るとジャーナリストや印刷業などで身を立てていた。 続きを読む

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【書評】イノウエ・ブラザーズの挑戦
 解説:本房 歩(ライター)

『僕たちはファッションの力で世界を変える』(井上 聡/井上清史/石井俊昭著)

「神々の繊維」

 2000年代に入って注目されるようになった「ソーシャル・デザイン」。不公正や不条理、社会問題をクリエイティヴな発想によって解決していこうという取り組みは、今や世界的な潮流になりつつある。
 それは、ソーシャル・ネットワークの普及によって、これまでにない形で人々がフラットにつながり、多様な情報が共有される時代がはじまったことと軌を一にしている。
 井上聡・清史の兄弟がアートスタジオ「ザ・イノウエ・ブラザーズ」を設立したのは2004年。07年から、南米アンデスの先住民と協働してアルパカの毛を使ったニット製品を作りはじめた。 続きを読む

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【書評】創価大学文学部教授陣による好著
 解説:本房 歩(ライター)

『ヒューマニティーズの復興をめざして』(山岡政紀/伊藤貴雄/蝶名林亮 編著)

人文系学問は不要なのか?

 2015年6月8日に文部科学省が発した通達「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」は、社会に少なからぬ波紋を広げた。
 とりわけ衝撃を持って受け止められたのが次の箇所だった。

 特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。

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【書評】全国100書店を歩いて見えてきたもの
 解説:本房 歩(ライター)

『「本を売る」という仕事』(長岡義幸著)

「幸福書店」の閉店

 この2月、〝本〟にまつわるニュースがいくつか駆けめぐった。
 東京・代々木上原駅前の書店「幸福書房」が、2月20日に閉店した。1977年に創業し、80年から同地に移転。近隣に住む作家の林真理子氏は、駅前にこの本屋があるのを見たことが、ここに転居を決めた理由の一つだったと述べている。
 林氏のブログなどにたびたび登場するほか、ここで林氏の本を買うと書店が預かって林氏のサインをもらっておいてくれることもあり、真理子ファンの〝聖地〟でもあった。
 家内経営していくには経営者が高齢になったことや、テナントとの契約が切れたことなどが閉店の主な理由には挙げられているが、やはりなんといっても書店の経営そのものが厳しい時代に入っているのだ。 続きを読む