【書評】「ただ生きる」という原点に立ち返る
 解説:イケダハヤト(プロブロガー)

『仔猫の肉球』(雨宮処凛著)

 自慢めいた話に聞こえてしまい恐縮ですが、ぼくは28歳にしては、まぁ、よくやっている方だと思います。気づけば幼少期からの夢だった物書きになり、文章のみで十分に生計が立っています(ブログでも公開していますが、売り上げで700万円程度を、文筆業から得ています)。

 家庭の面でも、料理上手な妻と聡明な娘に恵まれ、心身ともに健康かつハッピーに暮らしています。はたから見たら、かなり満ち足りた人生を送っているように見えるでしょうし、ぼく自身もそう思います。

 が、そんな満ち足りた状態だというのに、言い知れぬ「焦り」から抜け出すことができずにいるんです。もっと稼がなければいけない、もっと仕事をしなければいけない、もっと社会に貢献しなければいけない、もっと他人と差別化しないといけない……頭では「もう十分」だとはわかっているけれど、「もっともっと」と尻に付いた火が、どうにも消えないのです。

 本書『仔猫の肉球』は、そんな焦りの火をやさしく鎮めてくれる力を持った、解毒剤のような1冊です。

 著者は冒頭にて、人間のように生きる意味を問うことなく、「ただ生きる」ことを全身で謳歌する猫たちが「生きづらさ」を緩和してくれた、と語ります。人間は誰しも生まれたときは、「ただ生きる」ことで十分だったのに、いつしか不十分になっていく……そんな社会的な思い込みは、本書を読み進めるうちに、猫のような柔らかさでほぐされていきます。

「ただ生きる」ことは、人間の原点です。まずはその原点を肯定し、そこからおのおの、好き勝手に自分なりのこだわりを積み上げていく。積み上げてきたこだわりに違和感を抱くなら、一度それらを取り払ってみて、「ただ生きる」に立ち返ってみる。そういうしなやかなプロセスを通して、人は生きやすくなっていくのだと思います。

 この原稿を書いている今日は、日曜日です。今日は何かに追われることなく、「ただ生きる」を楽しもうと思います。


『仔猫の肉球』
『仔猫の肉球』
雨宮処凛著
小学館
税抜価格 1,300円
発売日 2015年4月1日