本書は2017年の国内外の動向について、インテリジェンスの巨匠と称される佐藤優氏と手嶋龍一氏が「独裁」という切り口を軸に行った対談をまとめた好著である。昨年はトランプ大統領の就任、北朝鮮によるミサイル実験・核実験など、国際的な危機を誘発させる事象が相次いだ。そうした中で、本書では「意思決定に時間がかかる議会制民主主義は、危機対応と相性が良くない」との見方が示され、世界的に独裁が忍び寄っている状況が解説されている。
確かに、近年多少の独裁性が見受けられたとしても、決断力を前面に押し出す政治家が評価されやすい。しかし、たとえ独裁者(あるいは、それに類する権力者)が大抵の問題にうまく対処できたとしても、その統治が「人の支配」に依拠する以上、目の前の局面に対して個人の固定観念や利害が影響し、当該国や国際社会にとって不利益となる決断がしばしば下されてしまう。実際、本書において両者も、昨年末にトランプ大統領が発表した在イスラエル・アメリカ大使館のエルサレム移転は回避されるものと捉えていた。つまり、そうした予想外の不安定要素が「決められる政治」には、つきものなのである。
1960年代から70年代にかけて、韓国は経済成長や北朝鮮に対抗できる政治と引き換えに独裁を許容したが、独裁政権は次第に民主化を求める市民の希望と合致しない政策を選択するようになっていった。結果的に韓国は、一度手放した民主主義を回復するために4半世紀を費やしてしまう。そうした教訓を踏まえれば、不安定化する現代社会を生きる上で、「独裁の懸念」と「議会制民主主義の限界」の両面を意識することは、必須の要件である。
また、本書では佐藤氏より平和主義を基盤とする「創価学会会憲」が国内外の政治において、大きな役割を果たす可能性も指摘されている。最後には非核3原則の見直しについて大胆な言及がなされるなど、本書はさまざまな議論を喚起させる刺激に溢れた1冊である。