「バリアフリーって、何だろう?」
本書を読みながら、私はあらためて考えた。
車椅子の方にとっては、道にわずかな段差があっただけで、進めなくなってしまう。エレベーターの利用や、トイレの心配など、さまざまなことで、街に出かけられなくなる。
そのような障壁については、今、社会の中でさまざまな技術が導入され、人々の気づきも深まり、次第に取り除かれようとしている。本書の著者、織田友理子さんのような、勇気ある行動も、そのような変化をもたらす上で、大いに力になっている。
しかし、よく言われることたが、「バリアフリー」を実現する上で本当に厄介な障壁は、私たちの心の中にある。本書の素晴らしさは、そのことを、織田さん自身が自らの体験を通して語る点にある。
学生時代にご主人と出会った織田さんは、何度も、私と結婚するのは無理だ、別れてくれと口にしたという。一緒にいることの大変さに対する思いやりからの言葉だったが、結果として、二人は結ばれた。
誰にでも、私には無理だ、大変すぎる、と思ってしまうことがある。思い込みの壁を乗り越えることが、人間としての成長につながるとすれば、心のバリアフリーは、私たちみんなにとって、最も大切な課題だと言えるのではないだろうか。
難病と闘う一方で、さまざまな課題に挑戦し、ついにはオバマ大統領も出席した、ケニアで開かれた国際会議に参加して、スピーチした織田さん。その生きる姿勢を通して、私たちは、バリアフリーということの普遍的な大切さを学ぶ。その点にこそ、本書の意味があるように思う。
著者は、「ひとりじゃないから、大丈夫。」と書く。ここには、心のバリアフリーを実現するための、大切な叡智がある。皆が相手を支えあえば、人はどこにでもいける。人のやさしさが、心の車椅子になる。
手と手を合わせて触れれば、壁は魔法のように消える。この本は、そんな、生き方の大切な真理を、私たちに教えてくれる。