親が子どもを虐待して死なせる――。そんな事件を耳にするたびに、やるせない思いに包まれる。厚生労働省の調査によれば、2013年度に虐待で死亡した児童は69人。しかし、日本小児科学会の「子どもの死亡登録・検証委員会」は、実数をその3~5倍と推計しているという。
事件が起きるたび、世間の怒りは親に向けられる。愚かで、親になる資格もない人間。しかし、果たして本当にそれだけで済ませてしまっていいのだろうか。
本書は、加害者となった親の生育環境まで丁寧に追いながら、なぜ事件が起きたかに迫る。取材過程で浮かび上がってくるのは、加害者である親たちもまた、劣悪な環境の中、人間らしく生きるルールなど学ぶ機会もなく育ってきたということだ。
たとえば、5歳の子どもをアパートに放置して餓死させ、7年間もそのままにしておいた厚木市の事件。逮捕された父親の母は彼が小学6年生の頃に重度の統合失調症を発症。
多感な時期に母親が壊れていき、周田に迷惑をかけるようになって以来、彼は「嫌なことをすべて忘れる性格」になったことを裁判で告白している。
一方、彼と幼い息子を置いて失踪した母親にもまた、「家族の因縁」が影を落としている。親族をして「この家で大きな問題が起こるのは、時間の問題だって思ってました」と言わしめるほどの複雑な血縁関係。女癖の悪い父親の失踪と、残された母親による厳しいしつけ。その中で、彼女は静かに追いつめられ、やはり壊れていく。
本書には、3歳児をウサギ用ケージに監禁して死亡させた事件や、下田市で起きた嬰児連続殺人事件も掘り下げられている。
凄惨な話が続くが、エピローグには救いがある。望まぬ妊娠の果てに生まれてくる子どもを里親に出す支援をするNPO。「どんな母親だってちゃんと支えてあげれば、うまくやっていくものなんです」。NPO代表の言葉は、事件を未然に防ぐ手がかりを言い当てている。