【書評】トランプ現象の見事な現状分析――将来予測に答える
 解説:安田洋祐(大阪大学大学院准教授)

『「トランプ時代」の新世界秩序』(三浦瑠麗著)

 大胆な言動や政策が注目を集め、連日メディアで大きく報道されている米国のトランプ新大統領。一見すると予測不可能にも思えるトランプ政権の先行きを占うためには、どうすれば良いのでしょうか。大手メディアや識者による解説では、常識的な価値観にもとづいて「あの政策は間違っている」「理想はこうあるべきだ」とする、是非論・べき論ばかりが目立ちます。

 このギャップを埋め、トランプ現象に対する現状分析と、それにもとづいた将来予測にバッチリ答えてくれるのが本書です。他の多くの政治学者とは違い、いち早くトランプ大統領誕生のシナリオを想定していた著者だからこそ、ここまでタイムリーな出版が可能になったのでしょう。自身が現地で行った、インタビュー取材から得た市井の声を分析に反映している点も、本書のさらなる魅力となっています。

 本書の構成は、第1章で全体を概観した後に、前半の第2~4章で米国の国内政治・経済にメスを入れ、後半の第5~7章で国際政治・外交を展望する、という形になっています。個人的に特に目から鱗が落ちたのは、第4章「『トランプ現象』の本質」で語られる「アメリカ社会における三つの変化」でした。著者は、トランプ現象を生み出した背景として、異なる時間軸に沿いながら、人種問題の主流化、白人中産階級の没落、深刻化するリベラルと保守の分断、の三つを指摘します。この鋭い分析を読むと、トランプ氏の登場以前からアメリカ社会の分断がいかに進んでいたか、トランプ氏の選挙戦略がいかに理に適っていたか、という点が窺えます。

 著者は「トランプ大統領は卓越したゲームチェンジャーである」(202頁)と評して、「彼が支配する『ゲームのルール』によって、皆が踊らされる。その事実について、私たちは自覚的であるべき」(96頁)と警鐘を鳴らしています。強く同意するとともに、本書を通じて多くの読者にこの見方が共有されてほしいと感じました。


『「トランプ時代」の新世界秩序』
『「トランプ時代」の新世界秩序』
三浦瑠麗著
潮出版社
税抜価格 本体759円+税 
発売日 2017年1月20日