「集団安全保障」の時代
佐藤優氏と山口那津男・公明党代表の対談『いま、公明党が考えていること』では、この2016年3月に施行された平和安全法制についても語り合っている。
この法制の背景には、国際社会の安全保障環境がかつてとは異なってきたことが指摘されている。
つまり、今や20世紀のように国同士が戦争することは起きにくくなっている反面、IS(イスラム国)のような非国家主体によるテロの危険性が高まっている。
加えて、米国の国力がかつてないほど凋落し、超大国が一国で世界秩序を支える時代から、国際社会が連携して世界秩序を構築していく段階に移った。
国家間の戦争に備えた「集団的自衛権」よりも、むしろ国家が連携してパワーバランスを保ちつつ平和をめざす「集団安全保障」が重視される時代に入っているのだ。
2014年7月1日の集団的自衛権をめぐる閣議決定に至るまで、どこが一番大変だったかと対談で佐藤氏に尋ねられた山口代表は、
「日本の安全保障を国際社会の枠組みに合わせるべきだ」という圧力です。
と正直に答えている。
国際社会からのプレッシャーは日に日に高まり、霞が関や自民党内はもちろん、野党の一部にも、日本はフルスペックの集団的自衛権を行使できるようにすべしと声高に主張する流れが出てきた。あからさまに、公明党の排除を叫ぶ者もいた。
結党以来「平和の党」を党是としてきた公明党にとっては、正念場ともいうべき局面だったのだろうと思う。
恒久法で〝縛り〟を明確に定める
しかし、ここでも公明党は「最大のピンチを、最大のチャンスに転換する」という智慧を出した。
日本国憲法の範囲内でどこまで自衛権を行使することが許されるのか。憲法の枠を飛び出さないようにきっちり基本を決めておかなければ、国際社会からの圧力に日本が引きずられてしまいます。
国際社会が集団安全保障をおこなうときに、日本国憲法に合う部分があれば共に行動してもよい。ただし憲法を逸脱してまで、日本が国際的な流れに追随してはならない。閣議決定によって、そこをきっちり固めたことが大事です。(山口那津男)
安倍首相が一旦は集団的自衛権行使容認へ舵を切ろうと閣議決定へ動きはじめた、その中に当事者として飛び込んで、結果的には憲法から逸脱しない〝縛り〟をかけた。
これまで、「9.11」を契機としたテロ対策特措法など、日本政府はことがあるたびに、その都度、自衛隊が外国軍隊を後方支援するための時限立法を制定してきた。こうしたことでは、将来、仮に国際社会から強烈な圧力があった場合に、やむをえずで流されてしまう恐れもある。
そこで、公明党が主導して、今回の平和安全法制のなかで、自衛隊の後方支援を規定する恒久法として「国際平和支援法」を定めた。このことで、日本ができる範囲をあらかじめ国際社会に周知させ、同時に必要な訓練を可能にすることで自衛隊員のリスクをより軽減できるようにしたのである。
法案成立直後に日中韓首脳会談が開催
国内でも国際でも、多様な意見や価値観、利害のせめぎ合うのが「政治」というものだ。冷酷なパワーゲームの中で、どうやって対立を回避し、理想に近づけ、互いの妥協点を見出していくか。政治を担うものには、その対話の資質が不可欠だ。
外交能力もなく、中国との関係を最悪の状況に追い込んだ民主党(現・民進党)はもとより、国際社会から議論の相手にもされない古色蒼然としたイデオロギー政党が、「戦争法案」「徴兵制」と叫んで、国民の不安を党勢拡大につなげようとしている姿は、無責任の極みと言うほかない。
選挙目当てに「野党共闘」を掲げる民進党には、もはや本気で政権を担う覚悟もないのだろうか。
まさに公明党の尽力で、日本に実質的な平和が担保されたわけです。南沙諸島で不穏な雰囲気が漂っているからといって、軽々な政治判断によって海上自衛隊のP3-C哨戒機を飛ばすことはできなくなりました。外交・安全保障という国家の重要政策についても、公明党はプレイヤー化したわけです。(佐藤優)
そもそも平和安全法制が野党の言う「戦争法案」などであれば、2015年9月に法制が成立した直後、韓国の朴槿惠大統領や中国の習近平国家主席が、安倍首相の親書を携えた山口代表と会見することはあり得ない。
法案成立から1ヵ月余りの2015年11月1日、安倍首相、李克強首相、朴槿惠大統領による日中韓首脳会談が、ソウルの地で3年半ぶりに実現したことが、この平和安全法制の性格を雄弁に語っていると思う。
「『いま、公明党が考えていること』を読む」シリーズ:
『いま、公明党が考えていること』を読む(上)―メインプレイヤーになった公明党
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『いま、公明党が考えていること』を読む(下)――軽減税率で見せた公明党の現場感覚