堤未果氏のアメリカをターゲットにしたルポタージュは、その細やかで、多岐にわたる具体的な取材で群を抜いている。前書『ルポ 貧困大国アメリカ』でも驚嘆させられたが、今回の書は、アメリカの大矛盾を、さらに鋭く、そして容赦なく摘発している。
プロローグのSNAP(補助的栄養支援プログラム)、つまりアメリカの低所得層や高齢者、障害者や失業者などに、食品を安く提供する制度で、私などは歓迎すべき制度だと捉えていたのだが、実はこの制度で大儲けをしているのは食品業界のウォルマートなど寡占企業で、こうした企業の物質的支援もあって、オバマ政権はSNAPへの支出が年々膨れあがり、政府予算を圧迫しているのにやめられないのだという。
契約養鶏者の話も強烈だった。テキサスに住む夫婦が新聞広告で、大手養鶏加工業者が、契約養鶏者を募集しているのを知る。
年間に1200万円程度の粗利益が出るということで、夫婦は広告の企業と契約する。鶏を育てるという仕事にも魅力を覚えたのであった。
だが、その後送られて来た契約書を見て、何から何まで企業の示す飼育法を守らなければならないと知って、少なからぬ不安を感じる。しかし、返送期限が翌日なので、不安を感じながら夫婦は契約した。
そして、夫婦の養鶏場が、完全な奴隷農場にされる経緯を詳細に書いている。養鶏場だけでなく、牛や豚の場合も同様に奴隷農場化しているのだという。
かつては、世界の憧れの都市であったデトロイトが見るも無惨な廃都市になっている経緯も詳しく書かれている。
ジャーナリストである私にとって衝撃的だったのは新聞、テレビなどのメディアが経営不振もあって、ジャーナリズムとは無縁な企業に買収され、無難化していることだ。最近ではワシントンポストまでがジャーナリズムとは無縁な人物に買収された。
堤氏は、ようするにアメリカ資本主義のねじれが、どんどん酷くなっていると指摘しているのである。
そういえば、アメリカの著名な映画監督であるオリバー・ストーンも『もうひとつのアメリカ史』のなかで、「2011年には、上位1パーセントの最富裕層が下位99パーセントよりも多くの富を所有し」「企業によるアメリカのレイプ」が行われていると指摘している。
オリバー・ストーンの指摘よりもはるかにリアリティーを込めて書かれた、大変な労作である。