脳の働きから見れば、ある人のことをいちばんわかるのは、その人と共通点も、相違点もほどよく兼ね備えた他者である。
自分のことは、案外わからない。自己を相対化する視点が欠けているからである。また、あまりにも遠い人のこともわからない。類推ができないからである。
韓国から日本に国費留学し、日本の大学で教鞭をとり、『媚びない人生』などのベストセラーを書いてきた作家のジョン・キムさん。その独自の人生観、生の哲学についてはこれまでも注目して来たところである。本書『不安が力になる』を読んで、加えて、日本のことを教えてくれる、素晴らしい「先生」であると確信した。
韓国と日本には、たくさんの共通点がある。一方で、違う点もある。その混ざり合いが、絶妙な距離感となって、ジョン・キムさんの洞察を支えている。
日本は「失われた20年」を経て、すっかり意気消沈している。しかし、アメリカやドイツ、イギリスにも滞在し、研究してきたジョン・キムさんの視点から見れば、日本ほど平和で、豊かな国はない。日本人はもっと、自信を持ってよい。お隣の韓国出身の俊才からの、愛に満ちたエールである。
最近の若者は、覇気がない、出世する欲求が足りないと言われるが、そんなことはないと本書は主張する。今の学生たちは、自身の人生をまっすぐに見つめている。むしろ、経済成長という幻想から自由になった新時代の生き方を、彼らは模索しているのだと。
随所に挟まれるジョン・キムさんの人生の物語が共感を呼ぶ。小学校の頃から、両親と離れて1人で暮らし、苦労されたのだという。信頼できる友人と語り合ったような、温かい読後感。ちょっと元気がないという人にこそ、おすすめしたい。