職を失ったり、家族の誰かが病気になったり、あるいは、心のバランスが崩れる。さまざまなことをきっかけにして、誰でも、生活困窮者になることがある。
そのような時に、社会が助けをさしのべるのは、人間として当然のことだし、憲法にも保障されている。ところが、世間の目は、往々にして厳しいと、本書の著者の1人である奥田知志さんは言う。
いざという時に、周囲が助けてくれるという心の「安全基地」がなければ、新しいことへのチャレンジもできない。情けは人の為ならず。困窮や孤立に対するサポートは、私たちみんなの未来のための礎なのだ。
本書のタイトルにもなっている「伴走型支援」は、経済的、物質的な支援がなされ、「ハウスレス」状態が解消された後にこそ始まる。そこには、こまやかな気遣いと、プロフェッショナルなノウハウが必要とされる。
なぜ、今、「伴走型支援」が注目されているのか。
本書は、「伴走型支援とは何か」から説き起こし、包括的、横断的、持続的なサービス、そして何よりも、役割の担い合いによる「自己有用感」の育みという、脳科学的に見た自立に向けての最重要テーマまで、論じられる。
具体的なデータ、事例に基づく伴走型支援の現状、これからの課題についての議論は、この分野に関わる専門家はもちろん、現代における「支え合い」のあり方や、生き方に関心を持つすべての人に大きな示唆を与えるだろう。
圧巻は、北九州における厚生労働省の助成に基づく「若年生活困窮者への伴走型就労・社会参加支援事業」、さらには福岡市で実施された内閣府の「パーソナル・サポート・モデル事業」(福岡絆プロジェクト)など、具体的なケースについての報告。温かい気持ちを、いかに形にしていくのか。現場の苦労と喜びが伝わってくる。生活困窮者支援のこれからを探る座談会も興味深い。
最初から最後まで、充実の1冊。読めば、あなたもまた、誰かの人生と伴走してみたくなるだろう。