いま、俳句人口1000万人、といわれる。各種の俳句大会や句会を見ても主力は女性で、専門俳人団体の会員も約65%が女性とのこと。女性俳句大隆盛、といってさしつかえないだろう。
もともと、男は俳句、女は短歌と言われていたものだが、この女性俳句大隆盛はどのようにしてもたらされたのか。
たとえば橋本多佳子の「雪はげし抱かれて息のつまりしこと」や桂信子の「ゆるやかに着てひとと逢ふ螢の夜」、あるいは鈴木真砂女の「死なうかと囁かれしは螢の夜」などは、いまでは男性も知っている恋の名句。
しかし、そういう世間の評価を得るまで、女性が俳句をやること自体、なかなか大変だった、ということが本書を読んでよくわかる。何が、どう大変だったのだろうか。
「女に教育はいらん」と言われ、結婚も家長の許可がなければできない。当然のように参政権もないのだから、女性は一人前の社会人だと認められていない。そういう時代が、つい70年ほど前まで現実にあったのである。
そうした情況を背景に、俳句を近代化した正岡子規や子規を後継した高浜虚子など有名俳人が登場し、それに関連して、明治期の天才俳句少女や大正以降の杉田久女、長谷川かな女など俳句史上に輝く女性スターが続々と現れる。さらに、えっ、この人もと思わせる平塚らいてう、武原はんなどもクロスする。
そして著者は新視点として、国木田独歩が創刊した『婦人画報』や国民雑誌となった『主婦の友』に新設された読者俳句欄という女性の新しい表現の場にもスポットライトを当てる。
そうした光と影の中で、まさに「小説より面白い」女性俳人たちのめくるめく恋愛俳句の世界が、ダイナミックに展開されていく。面白い。