「ストレス社会」と呼ばれる現代社会。職場でのストレス原因は、それぞれが持つ〝思考のクセ〟にあると木村英一氏は指摘する。
「ズレ」は当たり前という前提に立つ
何事も問題に直面したとき、その原因を知ることが問題解決への近道になります。では職場におけるストレスの原因とは何でしょうか。一見すると嫌な仕事、嫌な上司、嫌な顧客などがストレスの原因だと考えがちですが、実はそうではありません。
ストレスの根本原因は、ストレスを感じるその人の〝思考のクセ〟にあります。職場において、「人の価値観はそれぞれ違うのだ」という前提に立つのか、逆に「人はみんな自分と同じ価値観なのだ」と思うのかによって、ストレスを感じる度合いは全く違ってきます。
若い人の場合、大学時代の友人関係のように同質に近い人同士の集まりであった環境から、社会人になると、自分とは全く考え方の違う人が集まる環境へと変化します。年齢も性別も経験も違う人同士が集まる会社組織では、価値観も考え方も人それぞれで、自分と「ズレ」があることは当たり前なのです。ですが、そのことがなかなか理解できないため、多くの人が職場での人間関係でストレスを感じてしまうのです。
特に上司との関係においてはそうした現象が顕著で、ほとんどの人が自分を基準に物事を捉えています。たとえば、自分の基準を100%としたときに、上司は部下に比べると当然、経験値は多く、120%のレベルから話をしてきます。そうすると自分の基準との間に20%の差が生じます。
この差は自分としては経験がないため解釈できない領域になります。上司との関係においては、常にこの解釈できない領域があることを理解することが重要です。そうすれば、ストレスは軽減されていきます。
このようにストレスを上手に転化していくための〝思考のクセ〟をつけていくことが重要です。
結果は他人が評価する
仕事を持つ人であれば、誰しも仕事で結果を出し、達成感を感じたいという欲求があります。その欲求が満たされないことでストレスを感じることがありますが、その原因として、ある錯覚を起こしていることがあげられます。
それは「自分が努力して成し遂げたことには価値がある」という思い込みです。このような思い込みがある人は、自分で自分を評価してしまいます。努力したこと自体は確かに尊いことですが、それは結果に対する評価とは別物なのです。
あくまでも仕事の結果を評価するのは他人であり、職場においては上司が評価をすることを理解しなければいけません。いくら自分で評価をしたところで、それは自己満足で終わってしまうのです。
報連相(ほうれんそう=報告・連絡・相談)が大事だといわれますが、これも上司によって求める報連相が違います。「結論から先に言え」という上司もいれば、「まず背景を説明しろ」という上司もいます。つまり、上司が望む報連相をしなければ、きちんと報連相を順守しても評価されないことになります。
このように自分の評価と他人の評価には必ず食い違いが生じます。自分で自分を評価してしまう人は、「どうしてちゃんと評価してくれないのか」という不満を抱くようになり、それがストレスになってしまうのです。これではせっかくの努力が水の泡です。
「結果は他人が評価する」ことを理解しないままで、嫌な上司がいるからと環境を変えたとしても、また同じ問題で悩んでしまうものです。
自分の評価ではなく、他人の評価によってのみ、結果が得られるということを知ることが、ストレスを軽減するために非常に大切なことになります。
成長がストレスを消す
人がいちばんストレスを感じるのは、自分が成長していないことに対してです。生きているということは成長していることであり、成長が止まった瞬間に死んでいく、それが自然の摂理ともいえます。
人の成長とは何かを考えたとき、身体的には20歳前後で成長のピークを迎えますが、一方で精神的な成長には限りがありません。
職場における精神的な成長とは、自分の役割を明確にして、それをやり遂げていくことです。そうすると次の役割がまた現れてきます。そしてまたやり遂げる。その階段を1歩1歩上っていくことが、精神的な成長であるといえます。
ここで大事なことは自分の役割を明確に知ることです。それがわからなければ階段を上り、成長していくことはできません。
また役割といっても、それは与えられた目標への到達だけに限りません。時には社内での振る舞いであったり、リーダーシップの発揮であったり、期待される社員像の体現であったりします。これらは目標とは違って数値化できない役割です。
それを知るためには上司に直接聞くことがいちばんの近道です。万が一、上司から明確な回答が得られなければ、上司のさらに上司に聞いても構いません。自分の成長のためですから、そこはためらうところではないのです。
それをせずに役割が不明確のままでいることは、求められていることがわからないのに、やみくもに結果を出そうしていることになります。それでは結果が出せず、成長できないためにストレスが生じるという悪循環に陥ってしまうのです。
精神的な成長を加速させるためにも、自分の役割を知る努力をしてほしいと思います。
愚痴を言わず当事者意識を持つ
世間には愚痴を聞いてもらってストレスが発散できたと言う人がいます。しかし、瞬間的にはストレスを発散しているように思うかもしれませんが、実はその逆です。というのも愚痴を口にすることはイメージを強化することにつながるからです。
つまり、嫌いな人の愚痴を言うことは、より近くでその人をイメージすることになり、結果的にストレスを強めてしまうことになります。
ストレス軽減に必要なことは、問題を誰かの責任にして不平を口にするのではなく、当事者意識を持つことが大切です。
たとえば、近所にゴミが捨てられていたとします。「なんでこんなところにゴミを捨てるのだ」と誰かに責任を押し付けているうちは、ゴミはずっとそこに置かれたままで、イライラは続きます。しかし自分で捨ててしまえば、ゴミはなくなり、イライラも消えるのです。
それと同じように、問題の原因を自分の外にあると考えているうちは、問題はそのまま存在し続けます。そうではなく、自分の問題として捉えたときに解決へと近づき、そのことによってストレスも消えていくのです。
ストレスのほとんどは職場で生まれます。そのストレスに向き合うとき、思考パターンの違いによって重いストレスになるのか、自分の成長につながるか道が分かれます。
ぜひ賢明な〝思考のクセ〟を身につけて、このストレス社会を上手に乗り越えてほしいと思います。
<月刊誌『第三文明』2013年10月号より転載>
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