危機意識を持つことからすべてが始まる
「自分は親と同じくらいの生活を送れたらそれでいい」という20代の皆さんに知ってもらいたいことがあります。内閣府などの推計によれば、現在の60代は年金や健康保険料など、支払ったお金が約4000万円もプラスになって戻ってくるのに対して、今の20代は支払ったお金がプラスになるどころか、逆に給付される金額が1000万円近くも少なくなることが明らかになっています。つまり、今の20代は自分たちの親世代と比べてマイナス5000万円近いハンディキャップを背負っていて、親と同じような生活は保てそうにないのです。
約1000兆円もの巨額の財政赤字を抱え、加速度的に進む少子高齢化社会だからこそ、若い皆さんにはお金との付き合い方について真剣に考えてほしいと思っています。お金との向き合い方がわかれば、人生のさまざまな困難にも対処していくことができます。そして問題点が明らかになれば対策を数値化して明確化し、日々のアクション(行動)に落としこんでいくことも可能になるのです。
たとえば、「将来、年金が支払われるのか不安だ」と考えていたとしても何もしないで過ごす人と、それこそ豚の貯金箱に毎日500円ずつ貯金する人とでは、1ヵ月で1万5000円、1年で18万円、10年だと180万円もの差が生まれてきます。
年金の不安についても、ある日突然3000万円もの老後資金を用意することは非現実的だと思いますが、20代の今からじっくりと取り組めば、自分の力だけで老後の生活資金を用意することは十分に可能なのです。
たとえば毎月3万円を貯金したり、同額を株式や債券にコツコツ投資し、年率3%程度の運用実績を上げ続けることができれば、複利の効果によって約40年で2700万円もの資産を形成することができるのです。
ある意味で、お金を貯めることは歯磨きに似ています。日々の積み重ねであり、生活習慣なのです。問われているのは基本動作ができるかどうかだけです。物事は一足飛びに実現しません。だからこそ将来の夢や目標に向かって、今自分は何をすべきか逆算していくべきなのです。現状を認識し、危機意識を持つことからすべてが始まります。
家計プロポーションの見直しを
金融広報中央委員会の行った意識調査では、30代から50代までの貯金ゼロ世帯の割合はほぼ横ばいだということがわかっています。つまり、20代までに貯金の習慣を身につけておかないと、生涯貯金ができないといっても過言ではないでしょう。世界的な大企業ですら数万人単位のリストラを余儀なくされる不確実な時代です。病気や失業など、人生のさまざまなリスクに備えておくためにも、今のうちから家計全般の見直しを行っていく必要があります。
日本最大の投資教育機関「ファイナンシャルアカデミー」では理想の「家計プロポーション」を提案しています。毎月の収入の3割を住宅・保険・自動車などの「固定費」に充て、また3割を食費や交際費などの「変動費」に充てる。そして残りの2割ずつを、お金を増やしていくための「貯金・投資」とキャリアアップのための「自己投資(教育費)」に充てていくという考え方です。
注意してほしいのは、家計の見直しはダイエットに似ているところがあって、無理は続かないということです。特に変動しやすい生活費を必要以上切り詰めてしまうと必ずリバウンド(反動)が起こります。いちばん見直しやすい支出は固定費です。収入が少ないのに家賃の高い住宅に住んでいないか、果たして自動車を本当に保有していなければならないかなど、生活全般を見直していくべきです。
自分の将来を安定させていくためには、収入の一部を自己投資に充て、キャリアアップを図っていく必要があります。それもただ漫然と資格を取得するといったあいまいなビジョンではなく、「英語」「IT」「プレゼンテーション」など、グローバルに通用するポータブル(持ち運び可能)な能力を磨いていくべきです。家計という「お金の使い方」を見直すことができれば、仮に収入が少なかったとしても、貯蓄と自己投資は両立が可能です。
真のお金持ちを目指せ
投資に関するセミナーを主催し、学生の方々と触れ合っていると、違和感を覚えるときがあります。能力主義の徹底された外資系企業に強い憧れを抱くあまり、「自分はどのような人生を送りたいのか」といった夢や目標がリアルにイメージできていないのです。
たしかに外資系金融機関であれば、20代で年収3000万円を実現することも不可能ではありません。しかしそのためには、土日の休みもなく毎朝9時に出社し、翌日の早朝6時まで働き続けるといったハードな生活を送らねばならないのです。果たしてそのような人生が本当に幸福だと言えるのでしょうか。
かつては私も妻も、外資系金融機関で働き、高い年収を得ていました。しかし1日のほとんどを会社で過ごしていたため、お互いの接点は全くといっていいほどありませんでした。
やがて妻とともに起業をし、現在の年収はかつての10分の1ほどに下がりましたが、それでも家族の「幸せ度」は比較にならないほど向上しています。自分のライフスタイルに合わせて仕事をしているため、毎日子どもを保育園に送り迎えすることができますし、休日には家族団らんのひと時も持てるのです。
お金は目に見えて測ることのできる価値ですが、他人と比較することには意味がありません。お金が少ないことを嘆く必要はないのです。私の知人には、1億円の年収がありながらリーマン・ショックで自己破産してしまった人がいますし、巨万の富を得ても家庭に問題を抱える人もいます。お金の有無は人間の幸福を保証してはくれないのです。
「真のお金持ち」とはお金に振り回されない人を意味します。そして自分や家族や社会のためにお金を有意義に使える人を真のお金持ちと呼ぶのです。ぜひ若い読者の皆さんにも、自分の人生を明確に思い描き、幸せ度の高い豊かな人生を目指してほしいと願っています。
<月刊誌『第三文明』2013年9月号より転載>
(著書紹介)
『新興アジアでお金持ち』
岡村 聡 著
講談社刊
1470円(税込)株・不動産投資から仕事、教育・医療など移住生活まで、新興アジア6ヵ国のことなら全部載っている使えるガイド amazonで購入