独自の視点から魯迅文学を読み解く
著者はアメリカの大学院で文学理論を研究し、現在は日本の大学で教鞭をとる、80年代生まれの気鋭の研究者だ。母国中国ではフランスの哲学者ジャック・デリダの訳者としても知られている。本書は、著者独自の視点から魯迅の作品を徹底的に掘り下げ、その本質に迫ることを試みている。
ゆえに、ここでわたしは敢えて大胆なアプローチを提案する。魯迅のテクストに向かい合うとき、さまざまな研究や手練手管をまずは置いておいて、彼の文面を実直に、丁寧に読んでいこう、と。(本書10ページ)
本書は大学での講義をもとにして書かれており、入門書としての性質も持っている。しかし一般的な入門書のように伝記的事項を中心に論じることはない。よくある‶魯迅本〟のように切れ味鋭い彼の言葉にのみ目を向けることもしない。それでは表面的で断片的な理解に止まる可能性があると考える。これまでの研究は当然ふまえたうえで魯迅の作品を忠実に丁寧に読もうというのが、本書における著者の立場である。 続きを読む