諺から見える文化の違い
著者の小林和男氏はNHKでモスクワ支局長を2度務めた経験を持つ。解説主幹などを経て、現在はフリージャーナリストとして活躍している。『エルミタージュの緞帳』(NHK出版)などの著者としても知られているだけでなく、日本とロシアの文化交流にも尽力し、半世紀以上に渡ってロシアを見つめ続けてきた。
表題は19世紀末のロシア帝国の外交官で詩人のフョードル・チュッチェフの有名な四行詩「頭じゃロシアはわからない/並みの尺度じゃ測れない/その身の丈は特別で/信じることができるだけ」の冒頭から採られたもの。ウクライナ危機以後、諺が好きなロシア人がどんな諺を口にしているのか調べたところ、多くの人がこの言葉を口にしているという。
本書は102の諺を中心に、著者がこれまでに出会った人物や出来事を綴ったエッセイ集である。生活に根差した諺というレンズを通して、日本人にはますます「理解しにくい国」とされつつあるロシアの等身大の姿を伝えようとするものだ。内容はインタヴューした政治家や文化人に関するものから、歴史、芸術、食文化、果てはペット事情など多岐にわたっている。心が温かくなるような楽しいものもあれば、ソ連時代の背筋が寒くなるようなものあるが、すべて著者の経験したことであるという。興味深いエピソードを読み進めていくうちにロシアの独特の価値観、多様で奥深い文化が浮かび上がってくる。 続きを読む