※この記事は2012年12月に行われた総選挙の前にインタビューしたものです。
偏狭な領土ナショナリズム
孔子の論語に「遠慮なければ近憂あり」という言葉があります。ここでの「遠慮」とは、遠くのこと、つまり現在より先のことを考えることです。将来のことを考えて現実に臨まなければ必ず悪いことが起きるという意味です。
これは現在の日本の政治にもあてはまります。2012年9月11日に民主党の野田内閣は、尖閣諸島国有化を閣議で決定しました。中国政府は中日関係に重大な支障を及ぼす恐れがあるとのメッセージを日本に送り、中日間の問題は外交的対話を通じて解決に当たりたいという意向を重ねて申し入れていました。
しかし、野田内閣は領土問題は存在しないという立場から、強硬な姿勢で中国との対話を拒否したまま政府決定をしました。これが日中関係を一挙に悪化させる原因となりました。この決定を受け、中国で反日デモや日本企業に対して危害を加える行動も起きました。
この背景には石原慎太郎・前東京都知事などによる排外主義的な過激な愛国心に基づく領土ナショナリズムが声高に叫ばれていることがあります。日本の大メディアもこの動きを大きく報ずることで後押しした感があります。これが世論として巻き起こっているかのような状況になってしまいました。
歴史の教訓をさかのぼると、経済が深刻な不況に陥り世界恐慌の様相を呈したとき、国境をめぐる争いが先鋭化して国民世論に火をつけ排外主義的ナショナリズムが燃えさかったときは、軍事的衝突が起き戦争になってしまっています。
今は経済不振が深刻です。領土紛争は起こすべきではありません。歴史の重要な教訓なのです。拙劣な民主党政権は歴史の教訓に学ぼうともせず強硬な態度をとりました。中国側もそれに刺激されて反日的ナショナリズムの世論が高揚してしまったのです。
戦後67年間これほどの対抗的な反中国ナショナリズム、反日本ナショナリズムがエスカレートしてきた危機は初めてのことです。平和が崩れ戦争を招きかねない大変な危機に直面しています。
総選挙後の新政権において、石原慎太郎氏が政権内で補佐的な役割を担う状態となり、中国との対立を煽る危険性があることを懸念しています。そのとき、中国が軍事的行動に出てくる可能性もあります。
これは何としても防ぐべきです。日本で筋の通った平和と国際友好を一貫して主張し行動してきた公明党の皆さんに、戦火を交えるような事態は断じて避けるためのご尽力をお願いします。
穏健な保守中道政権の誕生を望む
この憂慮すべき状況は、2012年9月に行われた自由民主党の総裁選に立候補した5人の候補者すべてが、濃淡の違いはあっても集団的自衛権の行使を正当化する憲法解釈を主張し、憲法改正を断行する公約を掲げていたことにも表れています。そのなかで最も過激な主張を展開した安倍晋三氏が総裁に当選し、2番目に強い主張をした石破茂氏が幹事長に就任しました。自由民主党は過激なナショナリズムを主尊する指導体制になりました。
また石原慎太郎氏が新党を結成し国政に復帰して、日本維新の会代表として政治の中心軸となって持論を実現しようとしています。
新政権としては、自民・公明を主軸とした保守中道政権が望ましいと私は考えています。自由民主党の暴走を公明党が抑制しながら、国民のための政治を展開してほしいと願っています。
仮に石原氏が政権中枢に関与するような事態となれば、非常に憂慮すべき政権となる危険を強く感じているところです。
憲法改正を議論すべきときではない
安倍自民党総裁は憲法改正について2段階案を出しています。第1段階として憲法96条を変更し、衆参両院の発議をそれぞれの2分の1以上に変えて憲法改正を容易なものとする案です。第2段階は、憲法9条2項の改正をしようというものです。
石原慎太郎氏は、より過激です。現行憲法の存在そのものを否定し、憲法破棄を唱えています。あまりに過激でこれは支持されないでしょう。
しかし、自由民主党内部において安倍総裁が主張する憲法改正論は力を持ちつつあり、早期実現をめざし、2013年初頭には国会に憲法96条改正案を発議し、夏に実施される参議院議員選挙と同時に国民投票を実施しようという案もあるそうです。
現在の政治が担うべき重要な3点の課題
今、日本が行うべきは憲法改正などではありません。
公明党が強く主張している「防災・減災ニューディール」の実施が第1に実現すべき重要課題です。自然災害から国民の生命・財産を守らねばなりません。同時に、この「防災・減災ニューディール」は、「長期の経済不況からの脱却」も可能とするものです。これは、第2の課題である、有効な経済対策を講じる意味があるのです。これによって、生活の安全を確保しつつ経済の繁栄への希望の灯をともすことができます。
第3に消費税増税を円滑に推進するための方策です。景気を回復させ国民の所得を向上させることと、軽減税率を設け社会的弱者が不利益をこうむることがない配慮をしていくことです。これらの政策を前提とした「10兆円規模の補正予算成立」は一刻の猶予も許されません。
こうした現実の避けることのできない重要課題を優先させることが喫緊の課題であって、憲法改正というようなことは現時点で論議すべきことではないのです。より長期的な課題として残し、時間をかけ国民的合意のもとに考えていけばいいことです。
もちろん、憲法を検討するといっても、憲法9条はいささかの変更もすべきではありません。国際情勢を考えたとき、アジアにおける緊張が高まっている現在、憲法9条が禁止する政府による戦争遂行を認めないとの規定を改め、政府が戦争を行えるような憲法改変は、アジア各国を無用に刺激し、危険を倍増させる愚かなことです。日本が国際的に孤立しつつあり、日本の右傾化が世界的に憂慮されているときに、世界の世論を逆なでする憲法改変は世界を敵に回す愚策の極みです。
日本を救う公明党の草の根民主主義
2012年は世界的に選挙の年でした。各国において極右勢力の台頭が心配されたのですが、現実には比較的穏健な中道的勢力が主流を占める結果となりました。
オランダでは経済不況から階層的対立の激化により極右政権台頭の可能性が指摘されていましたが、中道的な穏やかな政権の誕生となりました。これは女性層が選挙において発言力を有し、世論の主導的役割を果たしたからです。女性の持つ調和主義的な視点が世論をリードした結果です。アメリカも悩んだすえ、女性層を中心とする穏健な調和主義が主流を占め、オバマ大統領再選が実現しました。
このように世界世論は、大きな潮流として穏健な思想のもと世界戦争を回避しようという動きをみせています。日本においても中道保守的な穏健な政治こそが望まれています。ことに、女性が世論をリードし、調和社会の建設を行うことによって戦争を避けつつ、さまざまな矛盾を解決していく方向にいくべきでしょう。
この目指すべき方向へのイニシアチブをとれる政党が公明党です。公明党は日本のバランスをとる役割を担ってきました。自公連立政権においても自由民主党の行き過ぎを抑制し、中道的・調和的な政策を遂行するために地味で目立たないところで努力してきたのが公明党の皆さんです。
今の日本の政党に問われていることは、国民のなかに根を張っているかどうか、地方議会に確固たる基盤があるかどうかということです。その意味で、公明党は強力でしなやかな支持組織を草の根的に有し、国民の声を政治に反映しています。地方議会に基盤を持ち、その地方議員数ではすでに第1党です。
公明党以外の政党が、国民のなかに広く根を持たなくなってしまったことが、政治が混迷している最大の原因です。自民党もかつてほど国民の声を聞くルートを持っていませんし、他の政党はなおさら根なし草です。
「国民の国民による国民のための政治」を実現するためには、政党が国民社会のなかに根づいてこそ可能です。公明党には2013年も大きな期待を私はもっています。
<月刊誌『第三文明』2013年2月号より転載>