休眠預金活用の具体的スキームと目的とは何か。谷合正明参議院議員に話を聞いた。
年間1000億円発生する休眠預金
長期間にわたり引き出しや預け入れなどの取引のない銀行口座「休眠預金」の活用について、自民党、公明党を中心に超党派で議論を進めてきました。その目的は、休眠預金を民間公益活動の促進のために活用しようというものです。
日本では、転居や死去など、さまざまな事情から預金者が名乗りを上げないまま、銀行に10年間以上放置されたままの預金が休眠預金として、毎年1000億円程度発生しています。そのうち預金者から申し出があって払い戻されるのは、400億~500億円程度です。払い戻されないまま残ったおよそ500億~600億円については、全国銀行協会の内規によって、現状では金融機関の雑所得(利益金)として計上処理されています。
そこで、この眠っているお金の活用に関する議論が数年前から起こりました。民主党政権時代には、この休眠預金の公的活用に関する閣議決定がなされましたが、途中で自公に政権交代したこともあり、詳細な議論にまでは至りませんでした。
その後、自民党・公明党で休眠預金活用に関する骨子を作りはじめました。民主党政権では、休眠預金を成長ファイナンス(成長を目的とする事業などへの資本調達)として活用することが考えられていましたが、休眠預金の性質を鑑みても、やはりこれは広く国民に還元すべきものです。ですから、成長ファイナンスではなく、社会全体への波及効果の大きい民間公益活動の促進に活用することを目的として据えました。
そして、2014年に超党派による「休眠預金活用推進議員連盟」が発足し、具体的な検討を進めながら法案作成に取り組んできたのです。
民間の公益活動の支援に活用
現在進めている「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律案(休眠預金法案)」では、休眠預金を活用する対象分野を、
①子どもや若者
②社会生活を営む上で困難を有する社会的弱者
③困難な状況に直面している地域
――としています。
これらを対象とした公益活動の分野には、たとえば青少年の自立支援活動や子どもの貧困問題に取り組む活動など、社会的課題として認知されながらも、政府や行政では手の届きにくい領域であったり、国の助成金がなかなか行き渡らない領域があります。
これらの領域で活動する団体は、行政や民間企業に比べ資金量が足りていません。この民間公益活動の担い手を、休眠預金を活用して支援していくことで、民間の創意工夫が十分に発揮され、公益活動を促進させるとともに、その効果を高めていくことができると思います。
休眠預金の活用の具体的な仕組みについてですが、まず発生した休眠預金は、金融機関から預金保険機構へ移管金として納付されます。この場合でも預金者が預金保険機構に、実際にはその委託を受けた金融機関になりますが、そこに申し出を行えば、預金の元本と利息に相当する金額が支払われます。ですから、従来と同じように、取引をしなくなってから20年、30年が経過していたとしても、預金者はしっかりと保護されます。
次に、国が指定した指定活用団体に預金保険機構から交付金として交付され、そこから助成等を行ってきた実績のある資金分配団体へと助成が行われます。そして最終的には、資金分配団体から実際に民間の公益活動を行っている団体へと助成を行うという流れです。
中立性ある新たな団体を設立
こうした仕組みに対して、ガバナンス(管理)を心配する声や無駄遣いになるのではないかと危惧する声がありますが、まずガバナンスの在り方については、十分に検討を行ってきました。
この仕組みでは、内閣府が基本方針、基本計画の策定を行い、これを通じて休眠預金の活用に関する考え方を示し、指定活用団体に対して必要な監督を行っていきます。国は指定活用団体の事業をチェックしながら、必要があれば立ち入り検査を行うこともできますし、万が一、不正が発覚するようなことがあれば、指定を取り消す権限もあります。
指定活用団体をつくるというと、天下り先になるのではないかとの見方もありますが、これは誤解です。これまでの議論の中でも、既存の団体が既得権益によってお金をハンドリングする権限が強まっていくことはよくないとの考えがありましたので、民間の人に集まっていただき、さまざまな分野の英知を結集し、あくまで中立性を担保した組織を新たに設立する形にしました。この新しい組織をつくるというところが、今回の法案の1つの重要なポイントです。
このように指定活用団体は、政府がつくるのではなく、あくまでも民間の人が集まった中立性と専門性を有した団体として新たに設立され、それを国が指定活用団体として指定するという形になりますので、天下り先になるということはありません。
そして、この指定活用団体が資金分配団体をチェックし、さらに資金分配団体が公益活動を行う現場の団体をチェックする構図になります。このように何重にもチェック機能が働くことからも「ノーチェックである」とか「ザル法だ」といった指摘は当てはまらないものだと思います。
公益活動を促進支援する仕組みの実現へ
また、お金が使いきれずに団体内に資金が積み立てられていくのではないかという声がありますが、この点も心配はありません。先ほど申し上げたとおり、休眠預金となるおよそ500億~600億円のお金は、預金保険機構から指定活用団体に交付されますが、全額ではなく、たとえば初年度は20億円というように、一部だけが交付されます。そこから各資金分配団体へと振り分けられ、次に現場の団体へと助成が行われます。
このように、あくまでも現場の団体が活用できる範囲で、お金が動いていくわけですから、何百億というお金が指定活用団体に積み立てられ、それが膨れ上がって〝NPO御殿〟と揶揄される豪華なビルが建つといったようなことは考えられません。
また、休眠預金活用の対象は、NPO団体だけに限ったものではありません。他にも公益法人であったり、あるいは法人格がない場合でも事業が公益活動に該当するというものであれば、助成対象になる場合もあると思います。
いずれにしてもそうした公益活動に従事する団体は、まだまだ独り立ちしきれていないところが数多くあります。その成長途上にある現場の団体を、税金とは違う位置づけの休眠預金を活用する仕組みによって支援していくというところが、この法案の重要なところです。
休眠預金という行き先のないお金が生じている状況は、望ましい状態ではありません。将来的には、休眠預金はなくなっていくことが望ましいと考えています。
今後、マイナンバー制度が始まり、預金者の任意ではあるものの、銀行口座と紐付けされていくことで、ある程度減っていく方向に向かうと思いますが、何よりもこの休眠預金活用の仕組みそのものが、休眠預金に対する国民の関心を高め、休眠預金を減らしていくことに資するものだと思います。
これまでの議論を経て、ようやく主要政党の足並みも揃い、法案提出に向けた準備が整いつつあります。今後、速やかな法案成立、そして休眠預金活用の実現に向けて、さらに推進していく決意です。