20世紀の後半になって、アメリカでヒップホップというストリート文化が誕生した。「DJ、ラップ・ミュージック、グラフィティ・アート、ブレイクダンス」をいう。黒人奴隷たちの労働歌や霊歌がジャズへ進化したように、ヒップホップも貧しい黒人たちのあいだから始まった。
伝説によると、クール・ハークが、1973年8月11日に妹の誕生パーティーで、ターンテーブルを使って、レコードをリミックスし、ブレイクビーツを響かせたのが起源らしい。
もともとジャズと同じようにマイノリティによる、なけなしの自己表現だった。貧しいもの、持たざるもの、社会のなかで阻害されているものたちの表現は、工夫に満ちていて、身ひとつあれば誰もができる。ヒップホップは、いまや世界で広く、共有される文化となった。
小説家の僕からしてみると、言葉を使うラップがいちばん身近だ。ただし、ステージでやったことはない。少年のころは、ロックバンドのボーカルだったり、フォークデュオを組んだりしていて、人前で音楽をやっていたから、もっと若ければラップもありだったかもしれない。
ラップは誕生の在り方からして、反抗の匂いがする。貧しい黒人たちが集まって、どうだとばかりにターンテーブルを回し、貶められた彼らの境遇を巧みなリリックで訴える。かなりまえからこれは新しい抵抗詩だとおもっていた。 続きを読む