連載エッセー「本の楽園」 第128回 雑の思想

作家
村上政彦

 先回のこのコラムで『弱さの思想』を取り上げた。実は、この『――の思想』は3部作で、最初が『弱さの思想』、次が、『雑の思想』、最後に、『「あいだ」の思想』となる。3冊ともすごくおもしろかったので、順にこのコラムで取り上げていきたい。
 今回は、『雑の思想』である。この本も対談集となっている。小説家と研究者の立ち話を聴くつもりで、気軽に読んでもらいたいとおもう。しかし中身は濃い。そこがこのシリーズのいいところだ。
 さて、「雑」というと、一般的にあまりいい意味で使われない。いい加減な仕事をすると、雑な仕事だといわれる。あるいは、部屋の中が散らかっていると、雑然としているといわれる。明らかに否定的なニュアンスを含んだ言葉だ。
 ところが、小説家の高橋源一郎と人類学者の辻信一は、「雑」に肯定的な意味、価値を見出そうとする。高橋が触れているなかで印象的なのは、小説家の言葉だ。 続きを読む

日本共産党のご都合主義――「革命政党」のプロパガンダ

ライター
松田 明

日本国憲法に反対した唯一の政党

 日本共産党・志位和夫委員長の、自衛隊をめぐるご都合主義的な発言が波紋を呼んでいる。
 志位氏は、4月7日におこなわれた同党の「参議院選挙勝利・全国総決起集会」で、きたる参院選の争点の一つだとして外交・安全保障に触れた。

いま、ロシアのウクライナ侵略に乗じて「戦争する国」づくりの大合唱が起こっています。日本共産党は、この逆流に正面からたちはだかり、「危機に乗じた9条改憲を許さず、9条を生かした外交で東アジアを平和な地域に」と訴えぬいてたたかいます。(『しんぶん赤旗』4月8日

 いつものように、まるで日本共産党が〝護憲の党〟であり、憲法9条を死守する党であるかのような話しぶり。
 しかし、大日本帝国憲法を日本国憲法へ改正する国会審議で、政党として唯一、日本国憲法に反対したのが日本共産党なのだ。 続きを読む

今こそ求められる「民間外交」の担い手――識者が読むSGI提言

中国清華大学高級研究員/中部大学教授
酒井𠮷廣

世界宗教が備える「doing」

 今回(第47回)の「SGIの日」記念提言を読んで、「doing(行動)」の書であるという印象が強く残りました。一般に、宗教は「聖典」(教典)を持ちますが、その共通点として「being(あり方)」を説いていることなどが挙げられます。具体的には、神仏の姿、教え、目指すべき社会、先人らの殉教の物語――といったものです。
 その上で提言は、日蓮の教え(being)を念頭に、眼前の地球上の諸課題を直視し、「このように解決していこう」との「doing」を国際社会・市民社会に呼びかけています。すなわち、教条主義に陥らず、刻々と変化する時代や社会状況に応じて、現実的かつ万人が共感し得る具体的方途を示している。そうした「画期性」が重要だと感じます。また、このような提言を40年も前から継続してきた熱意に感銘を受けました。
 さらに、もう一重思索を重ねると、創価学会ではすでに「being」が確立されているからこそ、明確な「doing」を展開できることが理解できます。これまで私は第三文明社の出版物はじめ、池田会長の著作を何冊も読んできました。中でも小説『人間革命』には、日蓮の教えを現代に継承する三代会長の平和行動と、草創期の学会員の物語が綴られています。この小説が「being」として受け継がれているから、学会員の皆さんもよりよい社会の実現に向かって「doing」できると考えられるのです。 続きを読む

芥川賞を読む 第16回 『蛇を踏む』川上弘美

文筆家
水上修一

理性と対称的な根源的な仄暗い力や衝動のようなもの

川上弘美(かわかみ・ひろみ)著/第115回芥川賞受賞作(1996年上半期)

石原慎太郎の辛辣な評価

 第115回の芥川賞は、当時38歳だった川上弘美の『蛇を踏む』が受賞した。『文学界』(1996年3月号)に掲載された約75枚の作品だ。
 この作品は、「ミドリ公園に行く途中の藪で、蛇を踏んでしまった」という鮮やかな一文から始まる。その蛇が女に変身し、「自分はあなたの母親だ」と言い張り、主人公のヒワ子にも蛇の世界にくる(蛇になる)ことを何度も勧める。ヒワ子は、蛇の世界に魅かれながらも、その誘惑に抗い蛇にはなるまいと格闘する。
 一種の変形譚(人間が動植物などに変る転身物語)だが、この作品では、人間が蛇になるのではなく、蛇が人間になる。人間は、あくまでも蛇になることと格闘するのだ。
 この作品に対する選考委員の評価はきれいに2つに分かれた。まず厳しい評価を与えたのが、前回の選考会から参加した宮本輝と石原慎太郎だった。2人が共通して推したのは、この作品ではなく、福島次郎の『バスタオル』だった。 続きを読む

高まる公明党の存在感――ウクライナ情勢で明らかに

ライター
松田 明

公明の提言に沿った緊急支援策

 ロシアの侵攻を受けているウクライナでは、少なくとも人口の20%にあたる約1千万人が国内外への避難を余儀なくされている(国連難民高等弁務官事務所調べ)。
 うち、国外へ逃れた人は3月19日時点で339万人(国連難民高等弁務官事務所発表)にのぼる(「読売オンライン」3月21日)。
 一方、国際移住機関の発表では、戦闘の激化などで移動したくてもできない状況の人々が約1200万人、ウクライナ国内の戦闘地域に取り残されているという。
 3月14日、公明党は日本政府に緊急提言を出し、日本への入国を希望する人々について、身元引受人がいない場合でも受け入れることと、避難民が増え続けている周辺国への支援を要請した(「公明ニュース」3月15日付)。 続きを読む