芥川賞を読む 第18回『海峡の光』辻仁成

文筆家
水上修一

いじめの被害者と加害者の未来。人間の不可解な本性に迫る

辻仁成(つじ・ひとなり)著/第116回芥川賞受賞作(1996年下半期)

ロックバンド「ECHOES」のヴォーカル

 第116回の芥川賞はダブル受賞となった。ひとつは前回取り上げた柳美里の「家族シネマ」。もうひとつが今回取り上げる辻仁成の「海峡の光」だ。
 辻仁成は、もともとロックバンド「ECHOES」のヴォーカルだった。1985年にミュージシャンとしてデビューして、そのわずか4年後に第13回すばる文学賞(受賞作「ピアニシモ」)で作家としてもデビューしているから、多彩な才能と言わざるをえない。当時は、有名ロックバンドのヴォーカルだから文学賞をもらえたのではないかというひねた見方をする者も一部にいたようだが、芥川賞受賞作「海峡の光」を読めば、それはひどい偏見だったことが分かる。 続きを読む

若者の声で政治を動かす――公明党のボイス・アクション

ライター
松田 明

7年目迎えたボイス・アクション

 公明党青年委員会(委員長=矢倉克夫参院議員)が実施したアンケート「VOICE ACTION(ボイス・アクション)2022」(4月1日~5月8日実施)の集計結果がまとめられた。
 このボイス・アクション(VA)は若者の声を聴きとって政治に反映させるため、公明党青年委員会が2016年に立ち上げたもの。
 マンツーマンの対話、インターネットのほか、駅頭などで人々に呼びかけて実現してほしい政策にシールを貼ってもらうなど、さまざまな方法で声を集めてきた。
 単なるアンケート調査ではなく、そこで可視化された若者の声を日本政府の政策に反映させてきたことが大きい。 続きを読む

雇用調整助成金の延長が決定――暮らしを守る公明党の奮闘

ライター
松田 明

政策的多元性をうみだす公明党

 本年度の補正予算が、5月31日の参議院本会議で、自民党、公明党、国民民主党などの賛成により可決成立した。
 ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、燃料価格や穀物価格の高騰などで国民の暮らしに大きな影響が出ている。新型コロナウイルス感染拡大によって疲弊していた経済にとって追い打ちをかける深刻な状況である。
 当初、自民党は参院選の前に予算委員会を開いて首相が野党の攻勢にさらされることを懸念し、予備費で乗り切ろうとしていた。不測の事態に備えてしっかりした補正予算を組むべきだという公明党と意見が食い違っていたが、4月21日の自公幹事長会談で、今国会で補正予算を成立させるはこびとなったものだ。
 たとえばコロナ禍での10万円一律給付のときのように、これまでも与党内では自民党と公明党で意見が割れる場面はしばしば見られた。
 ただ、両党はどれほど意見が分かれても最終的に合意形成して、政策として実現する能力がある。 続きを読む

G7サミット広島開催へ――公明党の緊急提言が実現

ライター
松田 明

多くの成果上げた日米首脳会談

 5月22日から24日にかけて、米国のバイデン大統領が就任後初めて日本を訪問した。大統領に就任して初めてのアジア訪問として韓国と日本を選んだもの。
 ロシアによるウクライナ侵攻の渦中、また北朝鮮がミサイル発射実験をくり返すなかでの歴訪であり、公明党の山口那津男代表は23日夕、同日におこなわれた日米首脳会談について次のような見解を語った。

一、日米首脳会談には二つの意義がある。一つは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持していく重要性を確認したこと。二つ目は、インド太平洋の平和で繁栄した地域を確保していく重要性を共有し、両国が主導的役割を果たしていくことを確認したことだ。米国が、この地域に対する関与を一層強めていく意思を明確にしたことが大きな意義だ。

一、韓国で新しい大統領が誕生し、オーストラリアでも新しい政権、新首相も誕生した。このタイミングで、バイデン大統領が韓国、日本を相次ぎ訪問し、日米首脳会談を行うとともに、24日にはインド、オーストラリアを加えた「クアッド」首脳会合も開かれる。この点も、同地域に米国が関与していく重要性を示すものだ。今回の日米首脳会談は、多岐にわたる成果を生んだ。大いに評価したい。(「公明ニュース」5月24日

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連載エッセー「本の楽園」 第131回 アメリカ版「雨ニモ負ケズ」

作家
村上政彦

 デヴィッド・フォスター・ウォレスという作家は知らなかった。重い精神疾患を患っていて自死したという。その3年前、アメリカのオハイオ州で最古の、ケニオン・カレッジの卒業式に招かれ、20分ほどの短いスピーチをした。
 アメリカ、大学の卒業式、スピーチというと、スティーヴ・ジョブズが思い浮かぶ。彼は2005年にスタンフォード大学に招かれ、卒業生にスピーチをした。「Stay hungry. Stay foolish」(ハングリーであれ。愚かであれ)というフレーズは、巷間に広まったものだ。
 ウォレスのスピーチは、このジョブズのスピーチを抜いて、2010年の『タイム』誌で全米ナンバー1に選ばれた。僕は大学に入学したものの、卒業していないので、卒業スピーチとは縁がない。
 ウォレスが何を話したのか、いろいろ想像を巡らせながら読み始めた。一読して思い出したのは、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」という文章だった。そういう印象を受けたのはレイアウトの作用が大きいかも知れない。 続きを読む