書評『差別は思いやりでは解決しない』――ジェンダーやLGBTQから考える

ライター
本房 歩

世界基準から遅れている日本

 SDGs(持続可能な開発目標)は、17項目のうち5番目として「ジェンダー平等を実現しよう」を掲げている。またSDGsの全体を貫く「誰も置き去りにしない」という理念は、LGBTQ(性的マイノリティ)の権利があらゆる場面ですべての人々と平等に尊重されるべきことを示している。
 今や大学では「ジェンダー」「LGBTQ」に関する講座が人気を集めており、企業や自治体も関連する研修に余念がない。
 すべてのEU加盟国、米国、オーストラリアといった先進国では、既にLGBTQ差別を禁じる法律が整備されており、この流れはグローバルスタンダードになりつつある。一方、日本にはこうした法制度がいまだ存在しないままだ。 続きを読む

ゴルバチョフ氏の逝去を悼む――人類の運命を変えた人物

ライター
松田 明

ゴルバチョフ氏と池田SGI会長の対談集『二十世紀の精神の教訓』(1996年)

核軍縮と冷戦終結の立役者

 日本時間の8月31日、ミハイル・S・ゴルバチョフ氏の訃報が世界をかけめぐった。モスクワ市内の病院で30日夜(現地時間)に息を引き取ったという。
 ソビエト連邦最後の国家指導者。東西冷戦終結の立役者。核兵器削減に取り組んだ功労者。西側世界にゴルバチョフ氏を称賛する形容詞がいくつもあるなか、ロシア市民のあいだでは氏の功績に対して冷ややかな声が強かった。
「新冷戦」と呼ばれるほど東西両陣営で核の脅威が高まっていた渦中の1985年、ゴルバチョフ氏は54歳の若さでソビエトの最高指導者である中央委員会書記長の地位に就いた。
 それまでのソ連指導者とはまったく異なり、彼は「ゴルビー・スマイル」と呼ばれた人間的な笑顔をもって、積極的に国民のなかに入って人々の声を聴き、世界との対話を開始した。
 就任の年のうちに米国のレーガン大統領と首脳会談をおこない、翌86年には「ペレストロイカ(再生)」を掲げて体制改革に着手する。同年4月にチェルノブイリ原発事故が起きて国際社会に不安と危惧が広がると、「グラスノスチ(情報公開)」に踏み切った。 続きを読む

日中国交正常化50周年の節目に求められる政治の役割――公明党は憲法98条を守り日中友好関係促進の具体的な行動を

中部大学教授
酒井吉廣

 ペロシ米下院議長訪台の翌日(8月4日)、中国は日本がEEZ(排他的経済水域)と主張する海域にロケット砲を五発着弾させた。このタイミングでのミサイルの発射は、日本がペロシを歓迎することを批判する意思表示を目的とするものだろう。
 ウクライナ紛争開始から半年を経た中で、台湾海峡問題もクローズアップされてきた状況でのこの出来事は、日本にとって大きな事件と認識された。ただし、訪台に対する中国の反発のイメージが強すぎて、日本訪問を批判することへの意思表示という認識は日本ではされていなかったようである。
 本件については、今後の日中関係を考えるべく、楊潔篪中国共産党政治局員が8月18日、秋葉剛男日本国家安全保障局長を天津に呼んで、食事を交えて7時間という長時間の会議の中で話し合われた。
 米中関係の改善を模索し始めた中国にとって、東アジアにおける米国の軍事戦略に取り込まれる割合の大きくなった日本との関係は、長い歴史のある隣国として、避けては通れない領土問題の解決とともに重要な外交課題となっている。 続きを読む

旧統一教会問題を考える(下)――党利党略に利用する人々

ライター
松田 明

共産党の異様なシンポジウム

 安倍元首相が銃撃殺害された事件で、容疑者の犯行動機が世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会)への恨みだったと報道されると、7月21日に立憲民主党は「旧統一教会被害対策本部」(本部長:西村智奈美衆院議員)を立ち上げた。
 また日本共産党も同じ日に「統一協会問題追及チーム」(責任者・小池晃書記局長/共産党は「統一教会」を「統一協会」と表記する)を立ち上げている。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第136回 マーサ・ナカムラの世界「小説」

作家
村上政彦

 文芸誌は儲からない。ある大手誌の編集長が月に800万円の赤字が出る、年間で1億円だ、とこぼしていたそうだ。それでも、大手出版社が文芸誌を出し続けるのは、自分たちが出版人であることのアイデンティティーを保ちたいからだろうとおもう。
 僕ら小説家も儲からない。それでも小説を書くのは、書かなければ小説家でなくなるからだ。僕は小説に救われた。小説に生かされている。小説家のほかに仕事を考えつかない。だから、小説を書く。出版社も似たような事情だろう。
 というわけで、書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)という出版社から、この時勢に新しい文芸誌が生まれた。
『ことばと』。編集長は、批評家で、最近、小説を書き始めた佐々木敦だ。書肆侃侃房、新しい文芸誌、佐々木敦という組み合わせから、これは買いでしょう、とおもっていたら、なんとマーサ・ナカムラの短篇小説が掲載されていた。 続きを読む