連載エッセー「本の楽園」 第133回 優しい語り手

作家
村上政彦

 オルガ・トカルチュクは、2018年度のノーベル文学賞を受けたポーランドの女性作家だ。僕はそれまで彼女の存在を知らなかった。僕の目配りが悪いこともあるのだろうが、それより世界は広くて、まだまだすぐれた未知の作家が多いというほうが正しいだろう。
 もう、ずいぶん前に安部公房がテレビの番組で、エリアス・カネッティがノーベル文学賞を受けるまで知らなかった、自分の不明を恥じる、と述べていたことがあって、彼ほどの作家でも、そうなんだ、とおもった。
 だから、僕がオルガ・トカルチュクを知らなかったことは、当然、と開き直っておこう。しかし、そのまま読まないのは、作家としては怠慢なので、さっそく、邦訳のある本を取り寄せた。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第132回 人間と自然

作家
村上政彦

 東京というメガロポリスに住んでいると、自然と接する機会が少ないようにおもわれる。人間以外の生物といえば、烏と鼠。あとはゴキブリだ。ペットもいる。犬と猫は、人間の生活に同化しているので、なかば人間のようにおもわれがちだが、やはり、内部には野生=自然をかかえている。自然との共生がいわれるが、本来、人間も自然の一部である。いくら医療技術や科学が進んでも、僕らの身体が自然から切断されることはないだろう。
 おもしろい短篇集を読んだ。『赤い魚の夫婦』。作家はメキシコ人の女性で、グアダルーペ・ネッテルという。「赤い魚の夫婦」「ゴミ箱の中の戦争」「牝猫」「菌類」「北京の蛇」と5篇の短篇小説が収められている。
 どの作品にも、人間ではない生物が登場する。金魚、ゴキブリ、猫、菌類、蛇――それぞれが登場人物と関り、独自な世界を築き上げていく。なかでも、「菌類」は秀逸だ。 続きを読む

書評『今こそ問う公明党の覚悟』――日本政治の安定こそ至上命題

ライター
本房 歩

首相に物申せる重み

 本年7月の参議院選挙は、今一つ争点が見えにくい選挙だと言われている。
 ワクチン接種の普及などでコロナ対策もなんとか奏功し、6月10日からは外国人観光客の受け入れも条件付きで再開することになった。また世界的に見ても手厚い各種給付支援策が実施されてきたことで、経済にも回復の兆しが見えはじめている。
 来年の主要先進国首脳会議(G7サミット)の広島での開催決定など外交面での成果もある。岸田政権発足時にはギクシャクして見えた自公連立の関係も、すでに緊密で安定したものになった。国際情勢がきわめて緊迫するなかで、各種世論調査でも内閣支持率が高止まりを見せているようだ。対する野党には、いまだ政権担当能力はお世辞にも見出せない。 続きを読む

芥川賞を読む 第18回『海峡の光』辻仁成

文筆家
水上修一

いじめの被害者と加害者の未来。人間の不可解な本性に迫る

辻仁成(つじ・ひとなり)著/第116回芥川賞受賞作(1996年下半期)

ロックバンド「ECHOES」のヴォーカル

 第116回の芥川賞はダブル受賞となった。ひとつは前回取り上げた柳美里の「家族シネマ」。もうひとつが今回取り上げる辻仁成の「海峡の光」だ。
 辻仁成は、もともとロックバンド「ECHOES」のヴォーカルだった。1985年にミュージシャンとしてデビューして、そのわずか4年後に第13回すばる文学賞(受賞作「ピアニシモ」)で作家としてもデビューしているから、多彩な才能と言わざるをえない。当時は、有名ロックバンドのヴォーカルだから文学賞をもらえたのではないかというひねた見方をする者も一部にいたようだが、芥川賞受賞作「海峡の光」を読めば、それはひどい偏見だったことが分かる。 続きを読む

若者の声で政治を動かす――公明党のボイス・アクション

ライター
松田 明

7年目迎えたボイス・アクション

 公明党青年委員会(委員長=矢倉克夫参院議員)が実施したアンケート「VOICE ACTION(ボイス・アクション)2022」(4月1日~5月8日実施)の集計結果がまとめられた。
 このボイス・アクション(VA)は若者の声を聴きとって政治に反映させるため、公明党青年委員会が2016年に立ち上げたもの。
 マンツーマンの対話、インターネットのほか、駅頭などで人々に呼びかけて実現してほしい政策にシールを貼ってもらうなど、さまざまな方法で声を集めてきた。
 単なるアンケート調査ではなく、そこで可視化された若者の声を日本政府の政策に反映させてきたことが大きい。 続きを読む