『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第11回 発大心(5)

[5]六即②

名字即・観行即

 名字即(みょうじそく)については、

 名字即とは、理は即ち是なりと雖も、日に用いて知らず。未だ三諦を聞かざるを以て、全く仏法を識らず。牛羊(ごよう)の眼の方隅(ほうぐう)を解せざるが如し。或いは知識に従い、或いは経巻に従いて、上に説く所の一実の菩提を聞き、名字の中に於いて通達解了(つうだつげりょう)して、一切の法は皆な是れ仏法なりと知る。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅰ)113~114頁)

とある。理即は、原理的に三諦、三智が備わっていても、まったく現実化していない。それに対して、名字即は、善知識(仏法を教えてくれる良い友人)や経典によって、知識としては三諦の名や一切法がすべて仏法であることを知っている。しかし、まだ知識にとどまっていて、実践修行の段階に入っていない場合をいう。 続きを読む

求心力を失う一方の立憲――広がる執行部への失望

ライター
松田 明

「なぜ、泉代表が来ないのか」

 野党のなかには、どれほど選挙で負けようと党首が22年以上も君臨し続ける政党もある一方で、ことあるごとに党内で対立し批判の応酬を繰り返す政党もある。
 旧民主党勢力の場合、もはやその内輪の足の引っ張り合いが見慣れた光景になりつつあって大きなニュースにもならない。
 統一地方選挙と補選が終わるや否や、立憲民主党内ではやはり執行部の責任を問う声が噴出した。
 昨年の参院選で立憲民主党が敗北した当時から泉健太代表の辞任を求めていた蓮舫議員は4月26日のツイートで、

現職だった吉田ただともさんは退路を断っての補選挑戦。
昨夏の比例票伸び悩みで参議院議席を失った有田芳生さんの山口4区での挑戦。
共に結果に繋がりませんでした。政治と金の不祥事による千葉補選も。
その総括さえも悠長な党執行部の姿勢に納得ができないと申し上げ続けています。回答待ちです(蓮舫氏のツイート/4月26日

と怒りの投稿。 続きを読む

G7広島サミットへの提言――池田大作SGI会長が発表

ライター
青山樹人

NHKニュースも報道

 4月27日、池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長は、5月のG7広島サミットに寄せて「危機を打開する〝希望への処方箋〟を」と題する提言を発表した。
 時事通信や全国紙が前日にデジタル配信したほか、27日午後にはNHKもニュースやWEBで報道した。

創価学会 池田大作名誉会長 G7広島サミットに向け提言発表(「NHK NEWSWEB」4月27日

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連載エッセー「本の楽園」 第152回 文盲

作家
村上政彦

 アゴタ・クリストフは、ハンガリーに生まれて、1956年のハンガリー動乱のとき、赤ん坊をかかえて、夫とともに祖国を脱出し、スイスへ亡命した。当時、彼女は21歳。そこからアゴタ・クリストフという作家が誕生するには、もう少し先のことだ。
 幼いころからアゴタは本を読むのが好きで、お話をつくるのが得意だった。家がまずしかったので、14歳のときに寄宿舎へ入った。そこは「孤児院と少年院を足して二で割ったような施設」。ただし、国が無償で食事と住む場所を与え、学校へもやってくれる。
 アゴタは、この寄宿舎で消灯の時間が過ぎても、街灯の明かりで本を読んで詩を詠んだ。お金を稼ぐために寸劇のシナリオを書いて、授業の合間に学校で見世物をやった。それはみなに歓迎されて、彼女は人を笑わせることがうれしかった。
 祖国がソ連に占領されて、ロシア語が学校で義務づけられ、教師たちは生徒たちに教えるため、ロシア語の速習を強いられた。しかし彼らにロシア語を教える気持ちは生まれない。アゴタたち生徒も学ぶ気がなく、「国を挙げての知的サボタージュ」という「消極的レジスタンス」をした。
 亡命先のスイスの町で使われていたのはフランス語だった。アゴタは読み書きはもちろん、しゃべることもできない、文盲となった。 続きを読む

芥川賞を読む 第27回『聖水』青来有一

文筆家
水上修一

死を前にしたときに信仰は何ができるか

青来有一(せいらい・ゆういち)著/第124回芥川賞受賞作(2000年下半期)

裏切り者の隠れキリシタンの末裔

 第124回芥川賞はダブル受賞となった。候補作はいずれもレベルが高かったようで、珍しく選考委員の多くが賛辞を送っている。三浦哲郎は、「今回の候補作は水準が高く、粒ぞろいで、順位をつけるのが難しかった」と述べ、宮本輝は、「候補作六篇、それぞれに作者の持ち味が出ていて、今回は豊作だという印象を抱いて選考会に出席した」と述べている。
 青来有一の「聖水」は、『文學界』(2000年12月号)に掲載された約190枚の作品。青来は、第113回の芥川賞から4回も候補に挙がっており、5回目の候補で受賞を勝ち取った。長崎県生まれの長崎県育ち。長崎大学卒業後、長崎市職員として勤める傍ら作品を書き続けてきた。被爆2世である青来の作品の多くのテーマは、被爆や隠れキリシタンなど長崎という固有の土地に根ざした作品が多い。「聖水」もまた隠れキリシタンの末裔の人々を題材としたものだ。 続きを読む