書評『新版 宗教はだれのものか』――「人間のための宗教」の百年史

ライター
本房 歩

創価学会に対する認識の乏しさ

 今、メディアでも国会論戦でも、旧統一教会の問題が連日クローズアップされている。このことはあらためて、〝宗教は何のためにあるのか〟〝宗教はだれのためにあるのか〟という根本的な問いを投げかけているように思われる。
 日本最大の宗教団体といえば創価学会だ。支持する公明党が20年以上にわたって連立与党の一翼を担っており、好むと好まざると、その影響力は日本社会にとって決して小さくない。大袈裟に言えば、誰しもが無縁ではいられないのだ。
 ところが、その創価学会についての人々の知識は驚くほど乏しい。ほとんどが何十年も言い古されてきたステレオタイプなものだ。批判的に見ること自体は必ずしも悪いことではない。ただ、最低限の情報と知識に基づいた批判でないと生産性のない稚拙な中傷に終わってしまう。 続きを読む

7連敗した「オール沖縄」――離反者が止まらない実態

ライター
松田 明

現役世代は過半数が知念氏に投票

 10月23日に投開票がおこなわれた那覇市長選挙で、自民・公明が推薦する知念覚氏が当選した。城間幹子・元市長の任期満了に伴う選挙。玉城デニー知事ら「オール沖縄」勢力が支援した翁長雄治氏は約1万票差で敗れた。

 復帰50年の「選挙イヤー」は七つの市長選全てでオール沖縄が敗れる結果となった。オール沖縄にとって県都を落とした影響は計り知れない。(「沖縄タイムスプラス」10月24日

「オール沖縄」勢力は、7月の参院選と9月の知事選には勝ったものの、名護市、南城市、石垣市、沖縄市、宜野湾市、豊見城市、那覇市と、今年おこなわれた市長選でことごとく敗北したことになる。
 この勝敗の構図は、県民が基地問題の解消を願いつつも、暮らしの向上を最重視していることを示している。沖縄タイムスが那覇市民に実施したアンケートでも、市民が一番重視したのは「経済振興」で34%。「基地問題」は17%にとどまった。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第139回 昭和の名短篇

作家
村上政彦

 僕がいちばん最初に買った個人全集は、『ドストエフスキー全集』だ。中学の2、3年生ごろだったおもう。行きつけの小さな書店に注文して、届いたという報せを受け、自転車で出向いた。
 帰りは荷台に、全集の詰まった段ボールの箱を載せて、自転車を押してゆるりゆるりと家路をたどった。何から読み始めたのだったか。すっかり忘れてしまったが、ともかく全部読んだ。そして、いまでは、一部を除いて、ほとんど忘れてしまった。
 ドストエフスキー最大の長篇『カラマーゾフの兄弟』(通称・カラ兄)の新訳を出して、古典新訳がベストセラーになるという「事件」を起こした亀山郁夫さんと、つい最近になって話す機会があった。
 亀山さんはカラ兄を訳しているときも、訳し終わったあとも、ずっとカラ兄のことを周囲の人に話した。文学にとっては、読んだら人に伝えることが、とても大切なのだ、そうしないと読者がいなくなってしまう、と亀山さんは静かに力説されていた。 続きを読む

憲法無視の立憲民主党――国会で「信仰の告白」を迫る

ライター
松田 明

《予算委員会で質問する立憲民主党の打越さく良参議院議員》

信仰を問いただした打越議員

 その〝驚くべき質問〟は、10月19日の参議院予算委員会で飛び出した。
 立憲民主党の打越さく良議員が旧統一教会の問題で、山際大志郎経済再生担当相に対して次のように問いただしたのだ。

山際大臣はご自身の秘書には信者がいたということを否定されているんですけれども、念のため伺いますけれども、大臣ご自身はいかがなんでしょうか?(「参議院インターネット中継」10月19日予算委員会[3:33:00]から)

 山際大臣に関しては過去に何度も海外まで出かけて旧統一教会の会合に出席するなど、同会との関係が取り沙汰されている。
 しかも、そうした過去の会合出席や旧統一教会トップとの面会などが記録として発覚しても、「記憶にない」「記憶はあったが記録にない」など、きわめて不誠実な対応に終始してきた。
 今や同大臣が岸田内閣への信頼を大きく揺るがす要因の一つとなっていることは、誰の目にも明らかだろう。
 しかし、その山際大臣に対して国会審議の場で自身の信仰を告白するよう迫った打越議員の質問は、あってはならない異常なものだ。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第138回 新型コロナ下の思考

作家
村上政彦

 コロナ禍は、なかなか終わりそうにない。ワクチンや服用薬が開発され、インフルエンザのようなものになっていくという予想もあるが、強毒性の変異株が現れる可能性も否定はできない。
 外出するときにはマスクをすること、手洗いや消毒は、日常の一部になった。COVID-19というウイルスは明らかに僕らの生活を変えたのだ。こういうとき、知識人の役割は、明晰な知性の力を使って、僕らがこのウイルスとどのように向き合えばいいのかを考えることだろう。
 すでに2020年、世界的な思想家であるスラヴォイ・ジジェクは、邦訳『パンデミック 世界をゆるがした新型コロナウイルス』という本を送り出している。このなかで彼は、我々はハグや握手の機会を奪われてしまったが、互いに眼を見つめることで、じかに触れ合うよりも心を開くことができる、親しい人と距離を取らなければならないが、そのためにこそ、彼らの重要さを体験できる、と述べている。 続きを読む