枝野氏「減税は間違いだった」――迷走する野党第一党

ライター
松田 明

減税は「野党共闘」の共通政策

 衆議院選挙を目前にした2021年9月8日。立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組の野党4党の代表が国会内で集合した。市民連合の呼びかけに応じて「共通政策」に署名するためだ。
 この「共通政策」には、

消費減税を行い、富裕層の負担を強化するなど公平な税制を実現し(【市民連合】「衆議院総選挙における野党共通政策の提言」PDF

とある。
 署名終了後、立憲民主党の枝野幸男代表(当時)は記者団に、

市民連合の皆さんに大変ご尽力ご協力をいただいて、野党4党で共通政策が作れたことは大変良かった(「立憲民主党」公式サイト2021年9月8日

と発言。 続きを読む

書評『日本共産党の100年』――「なにより、いのち。」の裏側

ライター
本房 歩

未来の選択を誤らないために

 本書『日本共産党の100年』は日本共産党が創立100周年を迎えた2022年7月に合わせ、朝日新聞出版から刊行された。著者の佐藤優氏はキリスト教徒の作家であり、モスクワの日本大使館に勤務していた元・外務省主任分析官である。

日本共産党は「普通の政党」ではない。革命を目標とした結社で、独自の理論、規則、さらには掟がある。日本の未来の選択を誤らないようにするためにも日本共産党について知っておくことが重要だ。
本書では、日本共産党が組織として刊行した公式党史、綱領集などの資料、機関紙「しんぶん赤旗」、党幹部が実名で公刊した書籍を主要な情報源とし、これらによりこの党を批判的に分析するという方法をとった。(「はじめに」より)

 長引くコロナ禍。ロシアによるウクライナ侵攻。それに起因する物価高。急速な円安傾向。佐藤氏は、近い将来に日本がインフレの嵐に襲われ、国民生活が苦しくなる可能性を指摘する。
 そして、そのときに政府の経済政策に異を唱え、米国主導の戦争に反対する日本共産党に魅力を感じる人が出てきても不思議ではないと見ている。 続きを読む

芥川賞を読む 第22回『日蝕』平野啓一郎

文筆家
水上修一

キリスト教学僧の、信仰者としての精神闘争を描いた大作

平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)著/第120回芥川賞受賞作(1998年下半期)

新人賞をすっ飛ばしての受賞

 第120回芥川賞を受賞した平野啓一郎の「日蝕」は、異色の形で芥川賞候補となった。通常、芥川賞候補になる作品は、いわゆる純文学五大文芸誌(文學界、群像、すばる、新潮、文藝)のいずれかの新人賞を獲得した作品や、その後それらの文芸誌に掲載された作品が選ばれることが多いが、「日蝕」はそれまでに一度の受賞もなく、いきなりの芥川賞候補となった。有名な話だが、当時23歳の京大生だった平野は、そうした新人賞に応募しても途中で落とされると考えて、『新潮』の編集長に手紙を書き「日蝕」を渡し、それが『新潮』に一挙掲載されたのだ。それが話題となり、芥川賞候補にもなって受賞に至った。
 こうした経緯から世間の注目を集め、中には「三島由紀夫の再来」などと評するメディアも登場した。 続きを読む

都でパートナーシップ制度が開始――「結婚の平等」へ一歩前進

ライター
松田 明

《「東京都にパートナーシップ制度を求める会」山本代表と懇談する都議会公明党の高倉氏ら(2021年6月8日付「公明ニュース」より)》

全国初、オンラインでの申請と発行

 11月1日、東京都は「パートナーシップ宣誓制度」を開始した。
 この制度は、LGBTQなど性的マイノリティのパートナーシップ関係を東京都が公認するもの。
 対象となるのは、以下の要件をすべて満たしているケースで、国籍は問わない。

●「双方又はいずれか一方が性的マイノリティであり、互いを人生のパートナーとして、相互の人権を尊重し、日常の生活において継続的に協力し合うことを約した二者である」と宣誓したこと。
● 双方が成年に達していること。
● 双方に配偶者(事実婚を含む)がいないこと、かつ、双方以外の者とパートナーシップ関係にないこと。
● 直系血族、三親等内の傍系血族又は直系姻族の関係にないこと(パートナーシップ関係に基づく養子縁組により当該関係に該当する場合を除く)。
● 双方又はいずれか一方が「都内在住、在勤又は在学」であること(都内在住については、双方又はいずれか一方が届出の日から3か月以内に都内への転入を予定している場合を含む)。

 申請から受理証明書の発行まで、全国で初めてオンラインで可能となった。すでに10月11日から申請受付が始まり、制度開始の11月1日時点で177組が申請したという。 続きを読む

立憲民主党の不穏な空気――党内にくすぶる執行部批判

ライター
松田 明

野田元首相の追悼演説

 10月25日。衆議院本会議場に、安倍晋三元首相への追悼演説を読む野田佳彦氏の声が響いた。立憲民主党の最高顧問。民主党政権時代の2011年9月2日から2012年12月26日まで、第95代内閣総理大臣をつとめた。
 2009年9月に生まれた民主党政権は、わずか3年あまりで、この野田政権をもって幕を閉じた。自民党総裁として政権をふたたび奪取し、野田氏から首相の座を引き継いだのが安倍晋三氏だった。
 野田氏は「もっとも鮮烈な印象を残す」記憶として、2012年11月14日の党首討論を挙げた。テレビ中継が入るなか、野田氏と安倍氏は激しい応酬をかわした。首相だった野田氏は衆議院の解散日を明言。そこから1カ月あまりで政権交代となる。
 両親ともに農家の出身で、自身もガス点検員などを経て政界入りした野田氏。片や祖父や大叔父に首相もいる政治家の一家で育った安倍氏。
 野田氏は安倍氏に、「私にとっては、仇のような政敵でした」と率直な心情を吐露したうえで、安倍氏が見せた人間的な優しさや気遣い、オバマ氏とトランプ氏という全くタイプの異なる米国大統領と親密な関係を築いた才覚を称賛した。 続きを読む