かつてこのコラムで書いたかも知れないけれど、作家デビューする前の僕は、フランスのヌーボーロマンなどの影響で、前衛的な小説を書いていた。写真とキャプションを組み合わせて、これが自分の小説だと胸を張っていた。
ところが、僕は前衛から降りた。きっかけは物語だ。ヌーボーロマンなどの前衛は、物語を否定した。僕は、物語こそが、小説のいちばんおいしいところではないか、と考えた。前衛は、「小説の死」を主張していたが、僕は、小説は死んでも、物語は死なない、という結論に達した。それで前衛を降りて、物語を書き始めた。
物語とは何か? これは一言では片づけられない。人間は世界を物語として認識する。たとえば、今日一日。もっと長いスパンでとらえれば、自分の生涯。人間は、始まりがあって、途中の過程があって、結末がある、というかたちで、さまざまな出来事を整理する。
だから、小説家でなくても、人間であるかぎり、誰もが物語をつくっているといえる――というようなことを考えていたら、こんな本と出会った。『物語の役割』。著者は、『海燕』新人文学賞で、僕より少しあとにデビューした小川洋子だ(いまや欧米の読書界でも活躍している)。 続きを読む
