2023年度予算案と公明党――主張が随所に反映される

ライター
松田 明

政府与党政策懇談会後に会見する公明党山口代表(12月23日)

物価高騰対策への施策

 2023年度当初予算案と税制改革大綱が12月23日の閣議で決定した。一般会計総額は過去最大の114兆3812億円。政府は当初予算案と税制関連法案を1月召集の通常国会に提出し年度内成立をめざす。
 このうち当初予算案は、日本が直面する内外の重要課題として、①安全保障・外交、②地方デジタル田園都市国家構想、③子ども政策、④GX(グリーントランスフォーメーション)を柱としたものになっている。
 グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)とは、産業・社会構造を化石燃料からクリーンエネルギーを主軸とするものへと転換する取り組み。政府は2050年までに温室効果ガスの排出ゼロをめざすカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を掲げている。
 また23年度税収見通しが過去最高となる見通しから、新規国債の発行は22年度当初予算から1兆3000億円減額することとなった。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第143回 令和の家族小説

作家
村上政彦

 僕が小説を書き始めたころ、アイドルは中上健次だった。一度、人を介して会いたいといわれたことがあったのだが、酒場への呼び出し出しだったので、生意気にも断ってしまった。中上健次は特別な存在だったから、そういう会い方をしたくなかったのだ。
 できれば、文芸誌の対談とか、ちゃんとした会い方をしたかった。その後、しばらくして中上は大病を患って亡くなった。僕はそれまでに彼と対談をするほどの出世はできなかった。あー、どうしてあのとき、会っておかなかったのだろう、といまでも溜め息が出る。
 小説家・中上健次の名が大きく世に出たのは、『岬』という小説が芥川賞をとったからだった。この作品は、一種の家族小説と読める。主人公の秋幸は土方である。土をめくり、汗を流し、飯を食う――そんな単純な生き方を心地よいとおもっている。
 ところが、秋幸の家族関係は複雑だ。彼が、「あの男」と呼ぶ実父には、ほかにも2人の情婦がいて、子供も産んだ。彼の母は、そんな夫と別れ、誠実な男と再婚した。男には連れ子が一人いた。
 つまり、何人かの腹違いのきょうだいと血の繋がりのないきょうだいがいる。秋幸はそういうしがらみをうっとうしいと感じている。特に血縁はわずらわしく、人を縛る。こういう血のしがらみを描いた家族小説は、昭和だとおもう。 続きを読む

安保関連3文書が決定(下)――脅威抑止としての「反撃能力」

ライター
松田 明

岸田総理大臣の会見(12月16日)

平和安全法制も「賛成」世論が上回る

 今回、政府が決定した安保関連3文書では、「反撃能力」の保有が明記された。これまで「敵基地攻撃能力」と呼ばれていたものだ。
 日本経済新聞、読売新聞、産経新聞や、日本維新の会、国民民主党などは、この「反撃能力」が盛り込まれたことを時宜にかなったものとして評価している。一方、立憲民主党は党内の意見がまとまらず、日本共産党や一部メディアなどからは「専守防衛を逸脱する」等の批判が出ている。
 この「反撃能力」について検証したい。
 まず国家が武力を行使することについて国連憲章は、

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。(「国連憲章」第2条の4

と禁じており、国際法上も一般的に認められていない。ただし例外として自衛のための行使は「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」という条件付きで、個別的と集団的の双方で認められている(「国連憲章」第51条)。 続きを読む

安保関連3文書が決定(上)――その意義と方向性

ライター
松田 明

「国際協調」「専守防衛」に徹する

 2022年12月16日、政府は臨時閣議で安全保障3文書の改定を決定した。
 3文書とは、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」。このうち「国家安全保障戦略」は国家安全保障に関する最上位のもので、外交政策及び防衛政策に関する基本方針を定める文書である。
「国家防衛戦略」はこれまでの「防衛計画の大綱」に替わるもので、およそ10年先の日本の防衛目標を定め、それを達成するためのアプローチと手段を示す。「防衛力整備計画」は、そのために必要な政策や装備調達を定めたもの。「中期防衛力整備計画」から改称したもので、中期防では5年だった時間軸がおよそ10年に変更された。
 日本の安全保障の基軸は日米同盟であることから、米国と整合性をとるために「戦略」と「計画」に立て分け、3文書で100ページを超えるものとなっている。
 2021年末以来、18回に及ぶ国家安全保障会議4大臣会合を重ね、与党の実務者ワーキングチームで15回の議論を積み上げてきた。
 ただ、実際には2014年1月に創設された国家安全保障局を中心に、前回の策定(2013年12月)から約9年の歳月をかけて緻密に議論してきたものが土台になっている。日本の安全保障の戦略体系と防衛計画が、論理の一貫性をもって策定されたといえる。 続きを読む

書評『日蓮の心』――その人間的魅力に迫る

ライター
本房 歩

500年早い「人権宣言」

 世界人権宣言の批准(1948年)から20年を記念して、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が1冊の書籍を編纂した。世界各国の歴史上の偉人、文学者などの言葉から、人権に関する普遍的メッセージを採録した『語録 人間の権利』(邦訳は1970年刊行)だ。
 ここに『万葉集』にとどめられた山上憶良の歌などとともに、日蓮(1222-1282)の『撰時抄』に記された次の一節が収録されている。

王地に生まれたれば身をば随えられたてまつるようなりとも、心をば随えられたてまつるべからず。(『新版 日蓮大聖人御書全集』204ページ)

 王(権力者)の支配する地に生まれたゆえに身体的には権力に従えさせられているようであっても、心は従えさせられることはない――。
 1274年の春、佐渡流罪から赦免され鎌倉に戻った日蓮が、自身を佐渡流罪に陥れた張本人である平頼綱と対面した際に放った言葉である。
 アメリカやフランスで人権宣言が生まれたのは18世紀の終盤であり、日蓮はそれよりも500年早く、高らかに「精神の自由」を宣言していたことになる。 続きを読む