池田SGI会長の緊急提言――ウクライナ危機と核問題

ライター
青山樹人

3年ぶりに行われた国連総会、一般討論演説(2022年9月)

5カ国共同声明から1年の節目

 創価学会インタナショナル(SGI)の池田大作会長が、『平和の回復へ歴史創造力の結集を』と題してウクライナ危機と核問題に関する緊急提言を発表した。
 提言は1月11日の聖教新聞に全文掲載されたほか、前日夜には読売新聞や日本経済新聞の電子版が「速報」を流した。
 池田会長は昨年(2022年)8月に国連本部で「NPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議」が開催された際にも、「核兵器の先制不使用」の誓約などに関する緊急提言を発表している。
 ロシアによるウクライナ侵攻はまもなく1年を迎えようとしている。双方で甚大な犠牲者を出しながら戦況は膠着し、ロシアのプーチン大統領は核兵器の存在に言及する恫喝を繰り返している。
 さらに食料やエネルギーの供給不足と価格の高騰は世界の広い地域に波及し、コロナ禍での疲弊に追い打ちをかけるかたちで多くの国々が深刻な打撃を受けている。庶民、とりわけ社会的に弱い立場にある人々が、文字どおりの生存の危機に立たされているのだ。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま 特別番外編① 上地流「拳聖 新城清優」顕彰碑・除幕式

ジャーナリスト
柳原滋雄

最晩年の上地完文を支えた新城一家

 現在、沖縄空手の三大流派に数えられる上地流は、中国武術の影響を強く受ける沖縄空手でも新しい流派の一つだ。上地完文(うえち・かんぶん 1877―1948)が中国福建省で学んだ武術を沖縄に持ち帰ったのがその発祥である。
 上地完文は32歳で帰琉後、ある事情から習得した武術をすぐに教えることはなかった。親しい人たちに教え始めたのは出稼ぎで工場勤務していた和歌山時代の1926年、49歳のときからだ。
 同じ沖縄出身の同僚たちの強い要請により、秘かに稽古を開始したのが始まりである。正式に「上地流」の流派を名乗るのは1940年。和歌山時代の高弟には、友寄隆優、上原三郎、赤嶺嘉栄、伊江島出身の新城清良(しんじょう・せいりょう 1908-76)などがいた。
 この時期、10歳で完文のもとに入門した少年がいた。新城清良の長男・清優(しんじょう・せいゆう 1929-81)だ。父の清良は胸を患い空手は3年くらいしか続けられなかったため、その夢を息子に託す形となった。当時、入門するには2人の保証人を立てることが必要とされる時代だったという。 続きを読む

芥川賞を読む 第24回『夏の約束』藤野千夜

文筆家
水上修一

同性愛者のありふれた日常を、軽妙に明るく描く

藤野千夜(ふじの・ちや)著/第122回芥川賞受賞作(1999年下半期)

軽い文体で描こうとしたもの

 W受賞となった第122回芥川賞のもう一つの受賞作が藤野千夜の「夏の約束」だ。『群像』(平成11年12月号)に掲載された約128枚の作品である。
 受賞翌年の平成12年に講談社から発刊された単行本の表紙を見ると、まるで小学生向け雑誌の表紙のような楽しげで明るくて軽いイメージだったので、一体どんな小説なのかと思いながら読み進めると、なるほど物語自体は実にたわいのない軽い内容なのだ。
 主人公である同性愛者の男性マルオとその恋人ヒカルを中心に、同じように社会の標準からは少しずれた若者たちのごくごくありふれた日常を淡々と描いている。何か大きな事件が起こるわけでもなく、深刻な問題を抱えているわけでもない。タイトルにもなった〝夏の約束〟にしても、友だちみんなで「八月になったらキャンプに行こう」と決めていた約束が、登場人物のちょっとした事故で行けなくなったという、たったそれだけのところから持ってきている。 続きを読む

裾野市の保育園問題から考える政治の責任

ライター
米山哲郎

《1》裾野市の保育園で起きた事件

 静岡県東部の富士山のふもとに位置し、四季ごとに山の変化を楽しめる裾野市。昨今はトヨタ自動車が自動運転を可能にする近未来型都市の造成を進めている注目の街だ。
 その裾野市で、「まさかこんなことが‥‥‥」と思わず絶句してしまう衝撃的な事件が起きていた。それは市内の保育園でのこと。1歳児のクラスを受け持つ保育士3人が複数の園児に16もの不適切な虐待行為をしていたという事件で、昨年12月4日に当時保育士だった3人が逮捕された。
 明らかになっている園児への不適切な虐待行為とは、暴言を吐く、カッターナイフを見せ脅す、脚をつかんで宙刷りにする、頭をバインダーでたたいて泣かすなどで、およそ口に出すのも憚られるものばかりだ。6月以降、逮捕された3人の虐待行為が目撃されるなどし、職員間で話題になっていたという。
 子どもの安全が保障されなければならない場所である保育園で、これらの信じられない行為が行われていた。大変にショックな事件であり、小さな子どもの心への影響も心配だ。すでに、県や市においては当該保育園に対して特別指導監査を行っており、厳正に対処してもらいたい。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第144回 中国の現代文学

作家
村上政彦

 閻連科(えんれんか)――中国の現代文学に関心のある人なら、一度は耳目に触れた名ではないかとおもう。僕は、この小説家の書く作品が好きで、何冊かは読んでいる。そして感心した。
 僕はそれほど詳しいわけではないが、中国には、何人かすごい小説家がいる。90年代には、ラテンアメリカ文学のブームがあったけれど、もし、日中韓などを核にして、東アジア文学のようなムーブメントが起きたとしたら、ラテンアメリカ文学のガルシア・マルケスに匹敵するのが、閻連科ではないか。
 彼の小説は、だいたいスキャンダラスだ。母国では禁書扱いにされている作品もある。でも、そういう小説家の書くものは、体制とスリリングな関係にあるからこそ、おもしろい。読む価値もある。
 ところが、本作『年月日』は、閻連科自身が、この作品は自分が書くほかの小説とは違っている、閻連科はこのような小説も書くのだと知ってほしいといっている。もちろん、力強い文章の運びや物事の本質を射抜く眼の働き方は、やはり、閻連科の小説だ。 続きを読む