80年代のなかばから90年代にかけて、シーナは僕のアイドルのひとりだった。シーナといっても、林檎のほうではない。誠のほうである。あちこちにあやしい探検隊として旅し、ぐゎしぐゎしビールを呑み、それを昭和軽薄体と称するかろやかな文章で書く。
『さらば国分寺書店のオババ』は、おもしろかったー。ただ、おもしろかったーという印象だけで、内容は、おそろしく本を大切にする、国分寺書店のオババのことしか憶えていない。
そのころの僕は、まだヌーボーロマンの一味で、日本初のアバンギャルド小説を書くことに励んでいたので、シーナの書く文章は、大袈裟ではなく、衝撃だった。こんなふうに書いてもいいのかと驚かされた。
それからしばらく、あまり僕はシーナの本を読んでいない。無意識のうちに影響を受けるのが怖かったのかも知れない。しかしあれから30年。シーナの新刊が出たと知ったので、もうそろそろいいだろうと、さっそく注文して読んでみた。
愕然とした。シーナが77歳の喜寿だと? コロナで死にかけただと? そうか。僕も歳をとったのだから、当然のことか。それにしても、ああ、年月の流れは残酷だ。もう、シーナとは呼べない。ここからは椎名氏とする。 続きを読む
