僕は10代の後半にフランスのヌーボーロマンの信奉者だった。どっぷりのめりこんで、アバンギャルドな習作をいくつか書いた。モデルになる小説は、それまで僕が読んできたどの小説とも違っていた。
まず、手法の新しさが何よりの価値となっていた。起伏のある物語や練られた人物造形などというのは、化石のようにあつかわれた。僕もそうだった。しかし、あるとき、自分の書いているアバンギャルドな小説がつまらないとおもった。
ちょうどガルシア・マルケスの『百年の孤独』を読んだ時期で、僕はこの小説にヌーボーロマンよりも新しさを感じた。とりわけヌーボーロマンは物語をきらった。それがマルケスの小説には物語があふれている。僕は物語が好きだ。物語が書きたかったのだ。
そのころ小説の死が真剣に語られていた。僕は、小説は死ぬかもしれないが、物語は死なない、と確信した。それでアバンギャルドな小説を書くことをやめて、物語のある小説を書き始めた。作家デビューをしたのは、それから2年後だった。 続きを読む
