『摩訶止観』入門

創価大学教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第4回 序分の構成と内容(1)

 湛然(たんねん、711-782)の『摩訶止観』に対する注釈書、『止観輔行伝弘決』(しかんぶぎょうでんぐけつ、以下、『輔行』と略記する)によれば、『摩訶止観』の本文(正説分)の前に、灌頂(かんじょう、561-632)が書いた序分(縁起)が載っている。
 この序分の構成は、まず通序と別序から成っている。次に別序については、「付法(ふほう)の由漸(ゆうぜん)を明かす」、「付法相承(そうじょう)を明かす」の二段から成っている。そして、後者の「付法相承を明かす」では、湛然の命名であるが、金口(こんく)相承と今師(こんし)相承が明らかにされる。
 今師相承の段は比較的長く、智顗が慧思(えし)から継承した漸次止観・不定止観・円頓止観(えんどんしかん)の三種止観についても説かれている。これらについては、項目を改めて説明する。 続きを読む

書評『ブラボーわが人生 3』――「老い」を笑い飛ばす人生の達人たち

ライター
本房 歩

超高齢化社会の〝格差〟

 日本は世界でももっとも早く2007年に超高齢化社会(65歳以上が人口の21%以上を占める)に突入した。65歳以上の比率は、2025年には30%に、2060年には40%に達すると予測されている。
 医療の進歩もあり、これからは健康寿命が延びる。それ自体は喜ばしいことだが、何を生き甲斐として、どのように社会とコミットして長寿を全うするのか。人類がいまだかつて経験したことのなかった新しい時代だけに、ロールモデルがない。
 一方で都市部を中心に核家族化や単身世帯が増え、今後はさらに単身の高齢世帯が増えると予測されている。地域社会のなかで見守ってもらえる人間関係を持っているかいないかは、もうひとつの〝格差〟になりつつある。
 この『ブラボーわが人生 3』は、聖教新聞で大好評を博している連載の書籍化第3弾だ。登場するのはいずれも、80代、90代、なかには100歳を超える人生の大ベテランたちだ。 続きを読む

書評『シュリーマンと八王子』――トロイア遺跡発見者が世界に伝えた八王子

ライター
本房 歩

シュリーマンの2つの業績

 現在のJR八王子駅から北に延びる道路には、甲州街道から浅川大橋のたもとまで道沿いに桑の木が街路樹として続いている。今や10万人を超す学生が学ぶ日本有数の学園都市である八王子市だが、昭和の時代までは「桑都(そうと)」と称されていた。
 ヨハン・ルートヴィヒ・ハインリヒ・ユリウス・シュリーマン(1822-1890)は2つの業績で知られる。
 1つは、トロイア遺跡の発掘だ。古代ギリシャの詩人ホメロス(紀元前8世紀頃)の叙事詩に登場する「トロイア」の実在を信じた彼は、ビジネスでなした巨万の富をつぎ込んで発掘調査にあたった。
 その結果、古代ギリシャ文明より前に高度な文明が地中海沿岸に存在していたことが明らかとなった。
 もう1つは、彼が考案して実践した「シュリーマン・メソッド」と呼ばれる語学教育の学習法。貧困家庭に育ち正規の学校教育を受けられなかったシュリーマンは、独自のメソッドによって働きながら十数カ国語を身につけ、貿易商として成功しヨーロッパ有数の富豪となった。 続きを読む

サミットまでに理解増進法を――世界が日本を見ている

ライター
松田 明

政府与党連絡会議の終了後、記者団に答える山口代表(2月6日)

64%が同性婚や理解増進法に賛成

 2月3日夜に飛び出した首相秘書官によるLGBTQ+や同性婚への差別的発言は、むしろそのような差別はもはや許されないのだという現下の世論を可視化させた。
 この発言を受けて、共同通信社は2月11~13日に全国緊急電話世論調査を実施。

同性婚を認める方がよいとの回答は64.0%で、認めない方がよいの24.9%を大きく上回った。(「共同通信」2月13日

LGBTなど性的少数者への理解増進法が必要だとの答えは64.3%に上った。(同)

 同性婚に賛成と回答した39歳以下の若い世代は81.3%に達していたと共同通信は伝えている。
 岸田首相は「今の内閣の考え方には全くそぐわない言語道断の発言だ。『性的指向』や『性自認』を理由とする不当な差別や偏見はあってはならない」と述べ、差別発言をした秘書官を翌日のうちに更迭。さらに自民党幹部にLGBT理解増進法案を今国会に提出するよう指示した。
 この法案は2021年5月に自民党を含む超党派の議連で一旦は合意にこぎつけながら、自民党内保守派の強硬な反対で国会提出が見送られたものだった。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第3回 『摩訶止観』の特徴(3)

[3]法華三大部(天台三大部)

 『摩訶止観』は、『法華玄義』、『法華文句』とあわせて天台三大部と呼ばれる。この三部作がいずれも天台大師智顗(ちぎ)の著作として扱われてきたので、当然の呼び名である。また、正確にはいつの時代からかよくわからないが、法華三大部とも呼ばれてきた。これらの三著が『法華経』と密接な関係があると捉えられたからであろう。 続きを読む