理解増進法をどう考えるか(下)――法律ができたことの意味

ライター
松田 明

法案成立を報じる『公明新聞』(6月17日付)

誰も得をしない野党の選択肢

 身も蓋もない言い方をすれば、政治は妥協の産物である。時には、多数派と少数派が妥協し合って合意形成するのが民主主義であり、それすらできない社会は強権独裁である。
 今回、自民党と公明党は数の上で与党だけでも法案成立が可能だったが、あえて自民党内の一部反対派を押し切り、さらに日本維新の会や国民民主党との合意を取りつけるために法案修正までした。
 あたりまえの話だが、各党にはそれぞれの支持層があり体面もある。合意するためには各党が支持者に説明できる、それぞれの論理の一貫性が必要だ。
 微妙な話をすれば、法文の解釈に関して、保守的な議員や支持者が納得できるロジックを用意する場合もあるだろう。事実、保守的な支持層に向けて、法律がむしろLGBTQ+の権利を抑制できるものだと強弁している議員もいる。
 だからこそ、国会の場で政府側の詳細な答弁を引き出しておくことが重要なのだ。
 ところが立憲民主党や日本共産党は、こうした合意修正を経て与野党が理解増進法を成立させることを全否定し、あくまでも自民党保守派が土壇場で葬った2021年の超党派議連の合意案にこだわった。 続きを読む

理解増進法をどう考えるか(上)――「歴史的一歩」か「残念な悪法」か

ライター
松田 明

内閣委員会で質問に立つ公明党・三浦参議院議員

法律に対する称賛と非難

 さる6月16日の参議院本会議で「LGBT理解増進法」(性的指向とジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)が、与党と日本維新の会、国民民主党の賛成で可決成立した。
 米国のラーム・エマニュエル駐日大使は英語と日本語でツイッターを更新し、

これで流れが変わりました。本日、日本の国会はLGBT理解増進法を成立させました。岸田首相のリーダーシップと、LGBTQI+の権利に対する日本国民のコミットメントをたたえます。これは、万人に平等な権利を確保するための重要な一歩となります。心よりお祝い申し上げます。(エマニュエル大使のツイート/6月16日

と、この法律が成立したことの意義の大きさを強調した。
 一方で、この法律に関しては保守派からもLGBTQ+当事者の一部からも、批判が噴出した。
 保守派は〝女風呂、女子トイレ、女子更衣室に男性が入ってきても、その男性が「私は女性です」と言えば、女性として扱わないといけない〟〝性暴力が増える〟等と主張。法律ができたことで女性の安全が脅かされることになったと非難する。
 他方、当事者の側からも「私たちの求めてきた法案とは真逆の内容であり、当事者にさらなる生きづらさを強いるものである内容」(「LGBT法連合会」6月13日の声明)という強い非難が寄せられた。
 称賛されるべき第一歩なのか、はたまた非難されるべき悪法なのか。法律の成立にどんな意義があるのか。できるだけ分かりやすく整理をしておきたい。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第15回 感大果・裂大網・帰大処

感大果

 五略の第三の感大果には、

 第三に菩薩の清浄なる大果報を明かさんが為めの故に、是の止観を説くとは、若し行は中道に違せば、即ち二辺の果報有り。若し行は中道に順ぜば、即ち勝妙の果報有り。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅰ)224頁)

と述べられてる。これは、十広の第八の果報に対応する段であるが、果報は実際には説かれない。ここでは、修行が中道に背くならば、空と仮の二つの極端な果報があり、もし修行が中道に従うならば、すぐれた果報があることを示している。
 さらに、『次第禅門』に明らかにされる修証(修行と証得)とこの果報との相違についての質問がある。「修」という原因と、それによって得られる「証」という結果は、習因・習果(因果関係において、因が善ならば果も善、因が悪ならば果も悪、因が無記ならば果も無記である場合、因を習因[新訳では同類因]、果を習果[新訳では等流果]という)という関係であること、またこのような修と証は今生で得られるものであるが、果報は今世と隔てられた来世にあると説かれる。新田雅章氏は、来世の果報とは、天台の国土観である四土(凡聖同居土・方便有餘土・実報無障礙土・常寂光土)に生まれることを指すのではないかと解釈している(※1)続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第160回 生涯の一冊と出会うには

作家
村上政彦

 僕は本が好きだ。小説や詩、評伝やノンフィクション――どのジャンルの本も、本であるなら手にとる。なかでも、最近になって気がついたのだけれど、本について書かれた本が好きらしい。
 僕の蔵書は(厳密に数えたことはないが)、ざっと3000~4000冊ぐらいだろう。これでもかなり整理してきた。そのなかに、本について書かれた本が眼につく。書評集、お勧め本のエッセイ集、読書についての本などなど。
 いちばん近くは、若松英輔の『読書の力』を読んだ。

 すべて良書を読むことは、著者である過去の世紀の一流の人々と親しく語り合うようなもので、しかもその会話は、かれらの思想の最上のものだけを見せてくれる、入念な準備のなされたものだ。(デカルト『方法序説』谷川多佳子訳、岩波文庫)

 僕は大学で小説の書き方を教えているのだが、そのとき学生に言うのは、書くためには、まず、読まねばならない、そして、読書は著者(他者)との対話であるということだ。僕らは読書によって、デカルトの言うように「一流の人々」と対話ができる。それが書くための準備になる。 続きを読む

民主主義を壊すのは誰か――コア支持層めあての愚行と蛮行

ライター
松田 明

改正入管法が可決成立

 先週6月8日、「改正出入国管理・難民認定法案」が参議院法務委員会で自民、公明のほか、維新、国民を含めた賛成多数で可決。9日の参議院本会議で可決成立した。
 反対した政党や一部メディアは〝強行採決〟などと非難したが、与野党を含めた文字どおりの多数が賛成した採決であり、強行でも何でもない。自分たちの意に沿わない採決はすべて〝強行採決〟だと言い募るほうが、よほど民主主義を蔑ろにするものだろう。
 改正法は外国人の長期収容問題を改善するのが目的で、親族や支援者ら「監理人」の監督を条件に入管施設外で生活しながら、退去強制手続きを進める「監理措置」制度を導入する。入管施設に収容した場合でも3カ月ごとに収容の要否を検討する。
 またウクライナ避難民のような難民条約上の難民に該当しない紛争避難民などを「補完的保護対象者」(準難民)として保護する制度も新設した。 続きを読む