新聞やTVなどのメディアでは、レジェンドという言葉をよく見かける。けれど、本物のレジェンドは少ない。賑やかしの好きなマス・メディア特有の誇張だ。ただ、『遺言 対談と往復書簡』に登場する2人は、真のレジェンドである。
志村ふくみは民藝の流れをくむ染織家、石牟礼道子は世界文学『苦海浄土』を著した小説家、詩人。この2人をレジェンドと呼ばずして、誰をレジェンドというか。
往復書簡の企画は、志村が、長くつきあいのある編集者に、いまいちばん話したいのは石牟礼道子さんといったことから始まり、病にある石牟礼を気遣って、志村が熊本まで出向いて対談を行った。
この間、石牟礼は新作能を構想していて、その衣装の染付を志村に依頼し、2人のあいだでは、能の脚本をめぐるやりとりも始まった。往復書簡は2013年の3月11日に始まり、2013年の5月30日まで続く。対談は2度。内容は、色と言葉についての含蓄ある思考に満ちているが、新作能の創作ノートの趣きもある。
僕が意外だったのは、対談で明らかになった石牟礼の水俣での立ち位置だ。『苦海浄土』は、水俣病を告発すると同時に、患者たちの、悲しく、美しい、生をとらえて、いのちの深部に達した文学となっている。
それが地元では、あまりよく思われていなかったらしい。 続きを読む
