『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第9回 発大心(3)

[4]四弘誓願

 『摩訶止観』における四弘誓願(しぐぜいがん)の名称は、「顕是(けんぜ)」の箇所に出るのではなく、十乗観法の第二「起慈悲心」(あるいは発真正菩提心)の箇所に、「衆生無辺誓願度、煩悩無数誓願断」(大正46、56上11~12)、「法門無量誓願知、無上仏道誓願成」(同前、56上29)と出る。 続きを読む

共産の惨敗が際立つ統一前半戦――牙城の京都でも落選相次ぐ

ライター
松田 明

前回に続き「野党統一候補」が落選

 4月9日、統一地方選挙の前半戦が終わった。
 投票箱が閉まった午後8時、北海道や神奈川、福井、大阪、鳥取、島根などで、早々と現職知事の再選が確定した。
 このうち唯一、与野党が全面対決する構図となって注目されたのが北海道知事選。現職の鈴木直道氏(無所属)を自民、公明、新党大地が推薦し、元立憲民主党衆議院議員の池田真紀氏を立憲が推薦、共産、国民、社民、市民ネットが支持した。
 北海道は全国でも野党勢力が強かった地域だ。結果は鈴木氏が169万2436票。池田氏の47万9678票の3倍をはるかに上回る大差で圧勝した。立憲民主党は前回に続いて「野党統一」候補で敗北した。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第150回 庭という楽園

作家
村上政彦

 一言いわせてください。僕は本書『derek jarmann`s garden』を探していたら、アマゾンで1900円の新品を見つけた。そこでカートに入れて、ほかの本といっしょに買うつもりでいたら、それが残りの一冊だったのか、あっという間に、この本は入手できません、というコメントが現われた。
 どうしても欲しい本だったので、ずっと探し続けていたら、ある日、古書が売りに出されたのだが、7000円超! しかし僕は迷わずにポチッた。
 実は、かつてジャン・ジュネの『恋する虜』を買おうとしたら、古書で8000円ほどの値がついていて気おくれした。そこで版元に問い合わせたら、近々、増刷する予定で、その半値で買えるという。僕は、新品を安く手に入れた。
 だから、このときも、同じようにならないかとおもったのだが、最初に買いはぐれてしまったので、我慢ができなかった。そうです。僕は、とてもせっかちな人間である。
 さて、デレク・ジャーマンは、イギリス出身で、映像作家、画家、舞台美術家として活躍した。1986年にHIVの感染が判明し、1994年にエイズで亡くなっている。
 本書は、1986年からデレクが、イギリス・ケント州・ダンジェネスの原子力発現所に面した土地で造りはじめた庭の様子が、彼の言葉と友人の写真家ハワード・スーリーが撮った写真によって記録されている。 続きを読む

書評『百歳の哲学者が語る人生のこと』――激動の時代を生き抜いた哲学者のメッセージ

ライター
小林芳雄

人間は小宇宙(ミクロコスモス)である

 著者のエドガール・モランは現代フランスを代表する哲学者・社会学者である。これまで数多くの著作を発表し、『人間の死』や『方法』などの代表作を始めとして、いくつもの作品が日本でも翻訳されている。彼の哲学の特徴は、「イデオロギー、政治、科学」がなす三角関係を「複雑系」と考え、その地点から「人間とは何か」を問い続けた点にある。
 本書は著者が100歳のとき出版された自伝的エッセイである。第二次世界大戦からコロナウイルスのパンデミックに揺れる現代まで――著者は激動の時代を生き抜いてきた。1世紀におよぶ生涯を回想しながら、自身の思想を明快に平易な言葉で語っている。 続きを読む

芥川賞を読む 第26回『花腐し』松浦寿輝

文筆家
水上修一

街と人間の堕落が放つ甘美な腐敗臭

松浦寿輝(まつうら・ひさき)著/第123回芥川賞受賞作(2000年上半期)

湿り気のある静かな文体で引きずり込む

 W受賞となった第123回芥川賞のもうひとつの作品は、松浦寿輝の「花腐し(はなくたし)」だった。原稿用紙約123枚。43歳での受賞。大学教授のかたわら詩人、評論家としても活躍していて、高見順賞、吉田秀和賞、三島由紀夫賞などをすでに受賞していた。芥川賞候補になったのはこれが2回目だった。
      
 舞台は、多国籍な街、新宿・大久保。主人公は、友人と立ち上げたデザイン事務所の経営が行き詰まり倒産に追い込まれた男。仕事も家も失った主人公は、雨降るある夜、今にも崩れ落ちそうな廃屋寸前のボロ・アパートの一室を訪ねる。他の住人が全て転居するなか、ただ一人居座る男を追い出すために恫喝しに来たのだ。借金をしている知り合いから依頼されて請け負った小銭稼ぎの仕事である。 続きを読む