書評『丸山眞男と加藤周一』――戦後を代表する知識人の自己形成の軌跡をたどる

ライター
小林芳雄

芸術への愛好と徹底した読書

 政治学者・丸山眞男(1914-1996)と文学者・加藤周一(1919-2008)は戦後日本を代表する知性であり、ともに著作も多く、実際に日本社会に多大な影響を与えた人物だ。
 本書は、2021年に東京女子大学の丸山眞男記念比較思想研究センターと立命館大学加藤周一現代思想研究センターが行った共同展示の内容を本にまとめたものである。数多くの著作だけでなく、膨大な未公刊の草稿や日記なども丹念に調査し、出生から1945年の太平洋戦争敗戦の年までの2人の成長の軌跡をたどっている。

 丸山と加藤は基本的には自由主義の立場に近く、社会主義に対しても多大なシンパシーをもっていたが、既成のイデオロギーの持ち主として捉えるのはミスリーディングであろう。二人は、出来合いの規準を内面化してそこから自己の判断や行動を割り出していくのではなく、自分なりの独立した判断規準を鍛え上げていくことを課題としていたのである。(本書20ページ~21ページ)

 旧制一高から東京帝国大学へ進学を果たし、エリートとしての経歴を歩んだ2人であったが、模範的な優等生ではなかったという。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第17回 釈名(2)

[1]相待止観②

(2)観の三義

 『摩訶止観』には、観の三義について、次のように説明している。

 観も亦た三義あり。貫穿(かんせん)の義、観達(かんだつ)の義、不観に対する観の義なり。
 貫穿の義とは、智慧の利(するど)き用(ゆう)は、煩悩を穿滅(せんめつ)す。(中略)此れは所破に就いて名を得るにして、貫穿の観を立つるなり。
 観達の義とは、観智もて通達して、真如に契会(かいえ)す。(中略)此れは能観に就いて名を得るが故に、観達の観を立つるなり。
 不観に対する観とは、語は上に通ずと雖も、意は則ち永く殊なり。上の両(ふた)つの観は亦た通じて生死の弥密に対して貫穿を論じ、迷惑の昏盲(こんもう)に対して観達を論ず。此れは通じて智・断に約し、相待して観を明かすなり。今は別して諦理に約す。無明は即ち法性にして、法性は即ち無明なり。無明は観にも非ず不観にも非ずして、而も無明を喚びて不観と為し、法性は亦た観にも非ず不観にも非ずして、而も法性を喚びて観と為す。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅰ)236~238頁)

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書評『なぎさだより』――卓越したエッセイストによる最高の「幸福論」

脳科学者
茂木健一郎

 文章の魅力とは、その人の人生のすべてが凝集して、まるで森のように深く豊かな世界を感じさせることだろう。
 橋出たよりさんの『なぎさだより』は、エッセイストとしての著者の感性がみずみずしく詰まった、読むと心にさわやかな風が吹くような傑作である。 
 大手出版社への勤務経験があり、マスコミの華やかな世界を知る橋出さんは、今は逗子に住んで海風が吹く土地で人生の時を刻んでいる。『なぎさだより』に出てくる生活の様子は、時に感動的で、あるいはホロリと涙を呼び、「そうそう!」と共感を呼ぶような繊細でさりげない観察と、人生についての洞察に満ちている。
 捉えられているのは、橋出さんの、そしてそれを読む私たちの「心が動く」瞬間だ。
 子どもたちとヨモギ摘みをした後、草餅をつくって頰張る。子どもが「指がいい匂い」「春の匂い」と言うのを聞いて、橋出さんはヨモギの花言葉が「幸福、平和」であることを思い出す。 続きを読む

立民、沈む〝泥船〟の行方――「立憲共産党」路線が復活か

ライター
松田 明

「どう考えても理解しがたい」

 立憲民主党から離党者が出始めた。
 1人目は松原仁・衆議院議員。6月9日に離党届を出した。松原氏の言い分は10増10減にともなう新設の「東京26区」からの立候補を認めてもらえなかったというもの。
 松原氏は松下政経塾を経て1985年に新自由クラブから都議選に出馬して落選。以後、無所属→自民党→新生党→新進党→民主党→民進党→希望の党→無所属→立憲民主党と目まぐるしく立ち位置を変え、今度はまた無所属となった。
 立憲民主党東京都連は、

党所属ベテラン代議士がこのような政治行動に至ったことは残念だ。これまで活動してきた地元選挙区を離れて新設の東京26区を希望する合理的な理由はどう考えても理解しがたい。

と、松原氏を非難した。 続きを読む

「革命政党」共産党の憂うつ――止まらぬ退潮と内部からの批判

ライター
松田 明

「赤旗」の発行自体が危機的事態

 6月26日の『しんぶん赤旗』が、ちょっとした波紋を呼んだ。1面の全幅を使って掲げられたヨコ見出しにデカデカと、

革命政党として統一と団結固める

との文字が躍っていたからだ。
 これは24日から2日間にわたって開催された日本共産党の「第8回中央委員会総会」(8中総)を報じた紙面だ。赤旗の1面に「革命政党」という文字が躍ったのは、いつ以来のことだろう。党員や支持者のなかからは、むしろ戸惑いや反発の声も聞こえる。
 8中総では、退潮傾向に歯止めがかからない党勢への言及が相次いだ。
 先の統一地方選で、日本共産党は計135議席を減らす大惨敗を喫した。党員の減少と高齢化、機関紙『しんぶん赤旗』の部数減も著しい。
 志位和夫委員長自身が、

討論では、党内に、「もう一つ元気が出ないという声がある」、「敗北主義的な傾向がある」ということが率直に出されました。(8中総「結語」

この2回の国政選挙と統一地方選挙での後退、連続する激しい反共攻撃などに直面して「何となく元気が出ない」という気分が党内にあることは事実だと思います。(同)

と述べている。 続きを読む