疾走するように生きるシングルマザーと息子との陰影が鮮やかな印象を残す
長嶋有(ながしま・ゆう)著/第126回芥川賞受賞作(2001年下半期)
母子の距離の見事さで人物を鮮やかに描く
第126回芥川賞を受賞したのは、長嶋有の「猛スピードで母は」だ。『文学界』(平成13年11月号)に掲載された約99枚の作品。当時29歳。それ以前、パスカル短編文学新人賞の候補作、ストリートノベル大賞の佳作第2席となり、文学界新人賞を受賞した「サイドカーに犬」は、前回125回の芥川賞候補になっている。
「猛スピードで母は」は、母子家庭を描いている。夫と離婚し女手ひとつで一人息子を育ててきた母親は、生き抜くために男に対しても社会に対しても遠慮がない。なおかつ自分の欲求に対しては素直で我慢はしない。おしゃれもするし腹が立つと趣味の車でぶっ飛ばす。
この作品の見事さは、人物の鮮やかさだ。無口で大人しい少年から見た母親を描いているのだが、普通、子ども目線で物語を描く場合、周りの人物や出来事を深い思索や認識で捉えて、表現することは難しい。しかし、この作品はそうした困難さを軽々と超えて実に印象深い母親と、その親子関係を描き出している。 続きを読む