G7広島サミットが開幕――「核兵器の先制不使用」誓約を

ライター
松田 明

被爆地・広島での歴史的なサミット

 いよいよG7広島サミットが開幕する。
 既に15カ月におよぶウクライナ侵攻では、プーチン大統領が核兵器使用の可能性をほのめかし、ベラルーシへの核配備計画が進んでいる。ロシアのメドベージェフ前大統領は4月25日の会議で、核戦争の可能性が大きくなっておりロシアが最初に核兵器を使用する可能性があると発言した。
 北朝鮮は核ミサイルの配備段階に入ったとされる。ロシアは新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を宣言しており、中国は2035年までに米ロに匹敵する核戦力を保有するという。
 こうした状況下で被爆地・広島でG7サミットが開かれる意義は幾重にも深い。
 サミット初日の19日には、米国、イギリス、フランスという核保有国を含む各国首脳を、岸田首相が平和記念公園で出迎え、そのあとそろって平和記念資料館を見学することになっている。
 G7各国首脳や政府関係者、世界中から集まっている報道関係者らが「被爆の実相」に触れ、核兵器が人類の上にもたらす惨禍への認識が深まる好機となるだろう。 続きを読む

芥川賞を読む 第28回『熊の敷石』堀江敏幸

文筆家
水上修一

エッセイ風な淡々とした文章から重くて怪しいテーマが漂う

堀江敏幸(ほりえ・としゆき)著/第124回芥川賞受賞作(2000年下半期))

力みのない静かな文体

 W受賞となった第124回芥川賞のもう一つの受賞作は、堀江敏幸の「熊の敷石」だった。『群像』に掲載された約117枚の作品。
 かつてフランスに留学し今は日本でフランス文学関係の仕事をしている主人公の「私」が、フランスを再訪しユダヤ系友人と久しぶりに連絡を取り、ノルマンディー地方の小さな村で再会する話だ。そこでは、何か特別な事件や物語展開があるわけではない。淡々と静かな筆致で二人のやり取りなどが描かれている。
 その文章は、隙がなく、力みもなく、静けさを漂わせながら知性を匂わせる。だが、物語展開があまりにも少ないので引き込み力がなく、長いエッセイを読んでいるような感覚になる。小説の醍醐味が物語性だとすれば、あまりにも淡々として熱量がなさすぎる。
 ラストシーンが近づくにつれて、それまで積み上げてきた伏線などがどのように劇的に結実していくのだろうかと期待をして読み進むのだが、最後まで淡白と進み静かに終わり、食いたりなさが残ってしまった。もう一度読み返せば、表には浮かび上がってこなかった重くて大きな何かが感じ取れる気配を感じたが、再読する気力は湧いてこなかった。 続きを読む

LGBT法の早期成立を――与野党の合意形成を望む

ライター
松田 明

「差別が許される国などありません」

 G7広島サミットを目前にした5月12日、LGBTQ+コミュニティの権利を支持し差別反対を訴える在外公館のビデオメッセージが公開された。
 登場したのは米国、アルゼンチン、アイルランド、デンマーク、スウェーデン、オーストラリア、フィンランド、オランダ、イギリス、ノルウェー、ベルギー、カナダ、ドイツ、アイスランド、EUの15カ国・地域の駐日大使ら。
 4月におこなわれた「東京レインボープライド2023」には、25の在外公館が参加。公明党の谷合正明参議院幹事長(LGBT超党派議連事務局長)ら、与野党の国会議員もパレードに加わった。
 ビデオメッセージを公開したエマニュエル米国大使は声明文を発表している。

先月、25の在日外国公館が何千人もの日本人と共に「東京レインボープライド2023」に参加し、婚姻の平等、普遍的人権、そして日本や世界中のLGBTQ+の人々に対する国際的な支持を表明しました。
差別が許される国などありません。全ての人々が平等であると信じるのであれば、私たちは国内外で声を上げ、立ち上がる義務があります。「東京レインボープライド2023」は閉幕しましたが、全ての人々の平等を実現する私たちの取り組みは続きます。(ラーム・エマニュエル米国大使の声明の一部

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レームダック化した立憲執行部――野党第一党の〝終わりの始まり〟

ライター
松田 明

「150議席に達しなければ辞任」

 残念ながら立憲民主党の〝終わりの始まり〟が見えてきたような気がする。
 同党は政権交代を掲げながら日本共産党との「政権協力」まで踏み込んだことで、2021年の衆院選で大敗。党を立ち上げた枝野執行部が退陣するハメとなり、泉健太新代表になった。
 泉執行部は日本共産党との「政権協力」を白紙撤回。ところが2022年の参院選でも大敗する。2つの選挙の敗北で、党内には大量の〝浪人〟を抱え込んでしまった。
 すると秋の臨時国会からは日本維新の会と国会での共闘を開始。とはいえ、党首同士が互いを罵り合うなど、ことあるごとに子供じみた不協和音のほうが目についた。
 そして、2023年4月の衆参補選で立憲民主党は完敗。統一地方選挙も道府県議選で10議席増えたものの政令市議選と市区町村議選では5議席減。選挙が終わるや、蓮舫議員らから公然と執行部批判が巻き起こった。
 選挙が終わって17日も経った5月10日になってようやく両院議員懇談会を開催。会合では「厳しい意見」が出て2時間半以上にもわたって紛糾した。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第12回 修大行(1)

[1]四種三昧①

 前回までで第一章の大意の中の第一の発大心の説明が終わった。次に第二の修大行を説明する。
 ここでは、常坐、常行、半行半坐、非行非坐の四種三昧(※1)を説いている。これらの名称は、修行の際の身体の形態(身儀)に基づいたものであり、内容的には、順にそれぞれ一行三昧、仏立三昧、方等三昧・法華三昧、随自意三昧と呼ばれる。『摩訶止観』では、それぞれの三昧について、身の開・遮(許可と禁止)、口の説・黙(説法と沈黙)、意の止・観(止と観)という具体的な修行の方法を示し、さらに、修行を勧める段が設けられている。
 人間の行為全般を、仏教では行・住・坐・臥の四種に分けることがある。行は歩むこと、住は立ち止まること、坐は座ること、臥は横になることである。このなかで、四種三昧は、行と坐を選んでいる。坐は坐禅に相当する。行はたとえば仏像の周囲を歩むことを意味する。この坐と行を折衷したものが半行半坐であり、坐と行に限定されない、その他のあらゆる日常の行為が非行非坐と呼ばれる。この四種三昧は、現在も日本天台宗の一部では修行されており、それについての報告も読むことができる(※2)続きを読む