孤立を深める日本共産党――信頼を失っていく野党③

ライター
松田 明

「日本からなくなったらいい政党」

 7月23日、インターネット番組に出演した日本維新の会の馬場伸幸代表は、日本共産党について、「言ってることが世の中ではあり得ない、空想の世界を作ることを真剣にマジメに考えている」「日本からなくなったらいい政党」などと発言した。
 日本共産党が党綱領で「社会主義・共産主義の社会」をめざしていることを指していると思われるが、共産党側は猛反発し、発言の撤回を要求した。
 だが馬場代表は26日、「謝罪や撤回するという気は全くない」と述べた。

 馬場氏はその上で、共産について「公安調査庁から破防法(破壊活動防止法)による調査団体に指定されている。破防法による調査対象団体ということは、危険な政党であるというふうに、政府としてみているということだ」と述べた。(「朝日新聞デジタル」7月26日

 事実、公安調査庁のサイトには、「共産党が破防法に基づく調査対象団体であるとする当庁見解」が掲載されている。 続きを読む

書評『ハピネス 幸せこそ、あなたらしい』――ティナ・ターナー最後の著作

ライター
本房 歩

音楽界の歴史に残る「女王」

 本年(2023年)5月24日、スイスのチューリッヒで1人のアーティストが静かに83年の生涯を閉じた。「ロックンロールの女王」「ソウルの女王」と呼ばれてきたティナ・ターナーである。
 SNS上では、世界各国の名だたるミュージシャンや俳優、さらに米国のオバマ元大統領など著名人が相次いで彼女の偉大さを称え、深い哀悼の意を表明した。
 本書は、彼女が前年の2022年に出版した文字どおりの遺作。80年余の生涯を振り返る自伝でもあり、書名のとおり世界に向けて贈られた〝幸福論〟でもある。邦訳は22年10月に刊行された。
 原著は発売と同時にベストセラーとなり、日本語版元のサイトによると、現時点で世界57カ国でも刊行され、その総発行部数は300万部を超えている。
 世界にその名を知られた歌手。彼女は1950年代から音楽活動をはじめ、ティナ・ターナーという名でステージに立ったのは1960年のことだった。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第20回 体相③

[2]眼・智によって体を顕わす②

(2)不次第の眼・智

 次に、不次第の眼・智について説明する。これは一心の眼・智とも表現されているが、円教に相当する。この立場は、対立を融合することが基本であるので、止は観、観は止で、止と観は相即している。また、眼は智、智は眼であり、眼と智は相即している。さらに、眼について見を論じ、智について知を論じるが、知は見、見は知であり、知と見は相即しているといわれる。そして、五眼(肉眼・天眼・慧眼・法眼・仏眼)の最高である仏眼は五眼をすべて備え、三智(一切智・道種智・一切種智)の最高である仏智(一切種智)は三智をすべて備えているといわれる。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第166回 辻征夫の詩

作家
村上政彦

 十代のころ詩を書いていた。好きな詩人は、日本の詩人では、中原中也と立原道造、外国の詩人では、アルチュール・ランボーとロートレアモン。中学生のとき、ランボーの『地獄の季節』を教科書に隠して、授業中に読んだことを憶えている。
 欧米では詩人から小説家になる例は少なくない。いや、多くの小説家が文学者としてのキャリアを詩から始めている。でも、日本では詩人から小説家になることは珍しいとまではゆかないまでも、少数派だった。
 ところが、近年になって小説を書く詩人が増えている。『現代詩手帖』2023年6月号の特集は、「詩と小説 二刀流の現在」だ。
 翻訳家で鋭敏な批評眼の持ち主でもある鴻巣友季子さんが、どこかで「小説は詩に帰りたがっている」と書いていた。僕は、やはり、とおもった。ロベルト・ボラーニョを読んだとき、同じことを感じたのだ。
 それを直感した「ジム」という短篇が収められているボラーニョ・コレクション『鼻持ちならないガウチョ』の奥付を見ると、2014年発行とある。いまから9年前だ。「ジム」は散文詩のような短篇小説で、読んだときに新しいとおもった。
 ちょうどそのころにノーベル文学賞をもらったバルガス・リョサが、次世代のトップランナーとしてロベルト・ボラーニョを挙げていたので、これは来るな、とおもった。自画自賛になるが、僕は自分の文学的な嗅覚をかなり信頼している。 続きを読む

芥川賞を読む 第30回『猛スピードで母は』長嶋有

文筆家
水上修一

疾走するように生きるシングルマザーと息子との陰影が鮮やかな印象を残す

長嶋有(ながしま・ゆう)著/第126回芥川賞受賞作(2001年下半期)

母子の距離の見事さで人物を鮮やかに描く

 第126回芥川賞を受賞したのは、長嶋有の「猛スピードで母は」だ。『文学界』(平成13年11月号)に掲載された約99枚の作品。当時29歳。それ以前、パスカル短編文学新人賞の候補作、ストリートノベル大賞の佳作第2席となり、文学界新人賞を受賞した「サイドカーに犬」は、前回125回の芥川賞候補になっている。
「猛スピードで母は」は、母子家庭を描いている。夫と離婚し女手ひとつで一人息子を育ててきた母親は、生き抜くために男に対しても社会に対しても遠慮がない。なおかつ自分の欲求に対しては素直で我慢はしない。おしゃれもするし腹が立つと趣味の車でぶっ飛ばす。
 この作品の見事さは、人物の鮮やかさだ。無口で大人しい少年から見た母親を描いているのだが、普通、子ども目線で物語を描く場合、周りの人物や出来事を深い思索や認識で捉えて、表現することは難しい。しかし、この作品はそうした困難さを軽々と超えて実に印象深い母親と、その親子関係を描き出している。 続きを読む