連載エッセー「本の楽園」 第167回 やさしい猫

作家
村上政彦

 近年、日本の女性作家がすごく活躍している。海外に翻訳されて、賞まで受けるのは、男性作家では村上先輩ぐらいだが、女性は何人もいる。これは男性作家が衰えてきたのか、それとも女性作家がたくましくなってきたのか――まあ、もっともこの国の最古の小説『源氏物語』を書いたのが、紫式部という女性作家なのだから、当然のことか。
 というわけで、今回と次回は、とてもおもしろかった女性作家の小説を紹介したい。
 まずは、中島京子の『やさしい猫』。語り手の「わたし」=マヤ(18歳)は、早くに父を亡くして、母のミユキさんと二人暮らしを続けている。いわゆるシングルマザーの家族だ。
 物語は、2011年5月、ミユキさんが突然、東日本大震災の被災地へボランティアにいくと言い出したことから始まる。彼女は保育士なので、現地の保育園で活動するという。それも一週間。マヤは慌てる。
 当時、まだ8歳だから、小学生になって間もない子供である。家事などできない。ミユキさんは、おばあちゃんに来てもらうから、というけれど、マヤは自分の子供よりよその子供のほうが大切なのか、と怒った。結局、ボランティアの期間は5日間になった。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第21回 体相④

[3]境界に寄せて体を顕わす

 十広の第三章「体相」の四段のなかの第三段、「境界に寄せて体を顕わす」について説明する。はじめに、能顕(諦境をあらわす主体)としての眼・智についての前の説明を理解できれば、この段の所顕(眼・智によってあらわされる対象)としての諦境について説明する必要がないが、理解しない者のために、この段落があると述べている。この段については、「境を説くの意を明かす」と「境智の離合を明かす」に二分されている。

(1)境を説くの意を明かす

 『法華経』を引用して、中道の境がなければ、智も知るものがなく、眼も見るものがないこと、仏眼の境(中道の境=中諦)があるはずであることを知るべきである。『維摩経』を引用して、俗の境(法眼の境=俗諦)がなければ、この眼は仏土を見るべきではないと述べている。『無量寿経』を引用して、慧眼の境(真諦)があるべきであることを述べている。つまり、三種の経典の引用によって、三諦の存在が示されている。この三諦の理は不可思議であり、確定した本性がなく、実に不可説であることが指摘されている。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑦ 沖縄空手会館の管理責任者・長堂綾所長インタビュー「むしろこれからがスタート」

ジャーナリスト
柳原滋雄

受託後いきなりの「コロナ禍」へ

沖縄空手会館の施設運営にあたる所長の長堂綾さん

 沖縄県の肝煎りで那覇市に隣接する豊見城市に沖縄空手会館がオープンしたのは2017年3月。以来6年以上が経過し、現在の指定管理者(OTS MICE MANAGEMENT株式会社を中核とする4社の共同企業体)による運営がはじまっている。
 開館から3年間は一般財団法人・沖縄観光コンベンションビューローが指定管理者として受託、2020~22年度は沖縄県内資本の旅行会社である沖縄ツーリスト株式会社が代表企業を務める沖縄空手振興ビジョン推進パートナーズが指定管理の委託を受けた。
 2023年度4月から、グループ会社のOTS MICE MANAGEMENT株式会社が代表企業を引き継ぎ、株式会社セイカスポーツセンター、館内清掃や施設管理を担当する沖縄ビル管理株式会社、周辺の植栽に関わる有限会社西原農園で管理・運営されている。
 沖縄空手会館の運営を開始した2020年4月以降、同じ月に新型コロナの感染拡大により「臨時休館」の措置がとられ、通常営業がかなわなくなった。そのため当初の予定と大きく異なる変更を余儀なくされた。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑥ 沖縄県空手振興課長・桃原直子さんインタビュー㊦ 「コロナ後を見据えて仕切り直す」

ジャーナリスト
柳原滋雄

「空手発祥の地」認知度アップの課題

空手振興課の3人目の課長・桃原直子さんと班長の仲間直樹さん

――沖縄が「空手発祥の地」である認識は県内ではそれなりに定着していますが、国内の県外にどう広げるかというのは前々からの課題ですね。現状はいかがですか。

桃原直子課長 令和4年度に新たに調査した結果では、県内の認知度は88.5%、県外は30.8%、海外は初めて調査して49.1%という数字でした。前回とった調査では、県内96%、県外34.6%でしたので、いずれも少し低下しています。おそらくコロナなどで道場が閉まったことなどが影響していると考えています。

――意外ですね。調査方法が変わったとか。

桃原課長 いえ、方法は同じです。2021年に東京オリンピックがあって、沖縄の喜友名選手が金メダルをとったのでその影響で伸びると思ったのですが、コロナ禍で空手関連のイベントが大きく減ったことも影響したのかもしれません。 続きを読む

沖縄伝統空手のいま 特別番外編⑤ 沖縄県空手振興課長・桃原直子さんインタビュー㊤ 「コロナ後を見据えて仕切り直す」

ジャーナリスト
柳原滋雄

4年以上空手業務を経験

空手振興課の3人目の課長・桃原直子さん

――縁ありまして、初代の山川課長(4年間)、2代目の佐和田課長(3年間)にも取材をさせていただきました。この4月から3人目の課長として桃原直子さんが就任されました。行政職として空手関係の仕事をされるのはそれなりに長いのですね。

桃原直子課長 2016年4月に空手振興課が設置された際、班長として1年間、関わりました。その直前の文化振興課時代には主幹として2年間空手を担当していました。空手振興課の班長時代は沖縄空手会館の共用開始が最大の課題でしたので、展示室に何を置くかなど、直前まで検討を重ねました。もともと空手は無形の文化ですので、それをいかに展示するかという難しさがありました。さらに沖縄空手会館の管理とともに、第1回沖縄空手国際大会(2018年)の準備を行っている段階で、別の部署に異動になりまして、昨年4月、再び班長として戻ってきました。トータルで課長就任以前に4年間、空手と関わっています。 続きを読む