『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第14回 修大行(3)

[1]四種三昧③

非行非坐三昧③

②悪に焦点あわせる

 悪を論じるにあたり、六蔽を悪としている。六蔽は、六波羅蜜を妨げる六種の悪心のことで、慳心(貪欲)・破戒心・瞋恚心・懈怠心・乱心・癡心をいう。これに対して、六波羅蜜が善と規定される。しかし、これは一応の定義であり、善と悪は相対的なものであることを説いている。たとえば、二乗が苦を脱却することは善であるが、自利のみの立場に制限されているので、慈悲に依って広く衆生を救済する蔵教の菩薩に比較すると悪となると説かれる。このような比較によって善悪の相対性が示されるのであるが、結局は円教のみが善と規定されて、次のように説かれる。 続きを読む

新局面を迎えた「同性婚訴訟」――有権者の投票行動にも影響

ライター
松田 明

名古屋地方裁判所

さらに踏み込んだ名古屋地裁

 5月30日、名古屋地裁(西村修裁判長)は、同性カップルの結婚を認めていない現行の法制度について「憲法に違反する」とした判決を下した。
 同性婚を認めないことは憲法14条(法の下の平等)と24条(婚姻の自由)に反するとして、13組のカップルが札幌、東京、名古屋、大阪それぞれの地裁に、2019年2月14日、一斉に提訴していた。
 これまで、札幌地裁(2021年3月)は14条に関して「違憲」と判断。大阪地裁(2022年6月)はいずれも「合憲」。東京地裁(22年11月)は24条2項の部分で「違憲状態」との判決を出していた。
 今回の名古屋地裁判決は、これらよりさらに一歩踏み込んで、14条1項と24条2項のそれぞれで「違憲」だとした。
 折しも国会では「LGBT理解増進法」が自民党保守派の抵抗を抑え込むかたちで広島サミット前に提出されたばかり。
 神道政治連盟や旧統一教会など自民党保守派の支持基盤は同性婚に強く反対している。
 一方、同じ与党でも公明党はスタンスが異なる。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第157回 流れ雲旅

作家
村上政彦

 つげ義春が芸術院の会員になった。本人は年金がもらえるから、とお気楽なコメントをしているが、漫画家としては初となる。だから、クリエイターとして偉くなったのか、村上も権威には弱いのだな、とはおもわないでほしい。
 権威が漫画に頭を下げたのだ。どうぞ、会員になってください、と頼んだのだ。漫画少年として、子供時代を生きてきた身の上としては、なかなか痛快なものである。僕が漫画少年だったころ、漫画は低俗なものとされてきた。親は、漫画ばっかり読んで、と叱った。
 もちろん芸術の世界でも、漫画を芸術的な作品と見ることはなかった。子供だましの手すさびぐらいにしかとらえられていなかったのだ。評価などおこがましい、論じるにも値しない――そんな、あつかいだった。
            
 潮目が変わったのは80年代の後半あたりからか。一部の先見の明のある人々が、漫画こそ世界に誇れる日本のすぐれた文化だ、という見方をするようになった。漫画評論家を名乗る人物たちもあらわれた。 続きを読む

公明党が激怒した背景――自民党都連の不誠実と傲慢

ライター
松田 明

自公の幹事長・選対委員長会談後に取材に応じる公明石井幹事長と西田選対委員長(5月25日)

 5月25日、公明党が「東京における自民党との選挙協力を解消する」というニュースが駆け巡った。
 同日昼、石井啓一幹事長と西田実仁選対委員長が、自民党の茂木敏充幹事長と森山裕選対委員長と国会内で会談。公明党は、この日の党常任役員会で決定した方針を伝えた。

①「東京28区」で公明党として候補者を擁立しない
②公明党が候補を公認した「東京29区」で自民党の推薦を求めない
③東京の小選挙区で公明党は自民党候補を推薦しない
④今後の都議選や首長選などで自公の選挙協力をしない
⑤都議会における自公の協力関係を解消する

というもの。
 石井幹事長は記者団に、会談のなかで「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」と伝えたことを明かした。
 茂木幹事長は「持ち帰って検討させてほしい」としたが、石井幹事長は「党の最終方針なので、この方針を変えることはない」と応じた。
 なお公明党は、これは東京に限定した話であり、連立に影響させるつもりも、他の46道府県に影響を及ぼすつもりもないとしている。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第156回 木と話す?

作家
村上政彦

 木と話すそうだ。木とは樹木の木である。大丈夫か? とおもった人は少なくないだろう。僕も、そうだった。特にプロローグの、明治神宮にいる樫の木のスダジイとのやりとりは、これは……と感じた。
 あるとき著者がスダジイに、そこでなにをしているのか尋ねたら、すごいエネルギーが返ってきたのだという。しかも、人間についての辛口な批評がふくまれたメッセージとともに。
 そこからスダジイのモノローグがつづく(これは著者がうけとった植物の思いを言葉に翻訳したものだ)。スダジイが言うには、日本にはいくつか国の錨(アンカー)になる場所があって、植物たちはそこへ地球の強い生命エネルギーを流すことで、自然のバランスを保っている。
 しかし人間はバランスを崩すようなことをする。つりあいを失ったところは蝕まれて、人間や動物が病むこともある。実は、人間も地球の生命エネルギーの場にいるのだが、それを意識することができず、地球の生命エネルギーに同調する力を失っている――。
 などなどとメッセージを伝えてくるのは、「木の魂の中でも、大元の魂」。そして、地球上の植物はすべてが大元の魂とつながっている。木にもいのちが宿っているのだ、という。 続きを読む