二宮清純「対論勝利学」――甲子園「1回11四死球」という不名誉な記録から得たもの

元少年野球指導者
金澤真哉

 高校球児憧れの舞台、甲子園。金澤真哉さんは、そこで得た苦い経験を糧にして子どもたちに野球を教えてきた。二宮清純さんが、その野球人生と指導方法について聞く。

捕手のミットが針の穴に見えた

二宮清純 今年の夏の甲子園は、慶應義塾高校(神奈川県)が実に107年ぶりの優勝で話題を呼びました。のっけから恐縮ですが、金澤さんも話題になった記録をお持ちですね。

金澤真哉 記録といっても私のは不名誉なもので、報徳学園(兵庫県)3年生の時のセンバツ(春の甲子園)で1回に11四死球を与えたのです。

二宮 1試合ではなく1回で、ですからね。私も初めて聞いた時は驚きました。当時の様子を詳しく聞かせてもらえますか。

金澤 1971年のセンバツ2回戦(初戦)、相手は東邦高校(愛知県)でした。初球が先頭バッターの左腕に当たってしまい、続くバッターへの2球目も頭に当たってしまったのです。その後は3者連続で四球を与え、6番バッターをセンターフライに打ち取ってやっとアウト1つ。でも7番にまた死球で、8番にも四球。9番のスクイズで2アウトになったものの、さらに4者連続で四球を与え、ようやく交代を告げられました。

二宮 打者13人に11四死球ですか……。記録を見るとその後にマウンドに上がったピッチャーも3四死球を記録しているので、初回に無安打で11失点を喫したわけですね。

金澤 そのとおりです。もう悪夢のような出来事でした。 続きを読む

書評『訂正可能性の哲学』――硬直化した思考をほぐす眼差し

ライター
本房 歩

コミュニケーションの奇妙な本質

 ITやAI技術の飛躍的な発展によって、私たちの生活はあらゆる面で最適化されるようになった。たとえば、あなたが動画配信サイトで動画を視聴したとする。すると、ビッグデータをもとに類似する他のユーザーとの比較がおこなわれ、自分の好みの傾向が導き出され、視聴する可能性が高いと思われる「おすすめ動画」がサジェストされる。
 ネットショッピングでのおすすめ商品や、SNSに現れる他のユーザーによる投稿なども、同様の手法に基づいて、自身の興味や関心に近い内容が優先的に表示される。
 こうした技術の進歩によって、私たちはおそらく歴史上、かつてないほど合理的で、より誤りの少ない選択ができる環境に身を置くようになった。しかし、こうした合理性の追求は、私たちの人生を真に豊かにするのだろうか。
『訂正可能性の哲学』は、〝正しさ〟の時代にあって、誤ることの価値について論じ、さらには普遍的な正しさを疑う「訂正」の重要性を説いた一冊だ。

 ぼくたちはつねに誤る。だからそれを正す。そしてまた誤る。その連鎖が生きるということであり、つくるということであり、責任を取るということだ。(本書)

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連載エッセー「本の楽園」 第172回 パレスチナ

作家
村上政彦

 もう4、5年ほどになるだろうか。ジャン・ジュネの『恋する虜』というパレスチナをめぐるノンフィクションを見つけて、買おうとおもったら、中古書しかなく、3万円を超える値段がついていた。
 僕にとって本は商売道具でもあるので、できるだけの投資はする。でも、3万円は高い。どうするか考えあぐねたあげく、版元に電話してみたら、近々、重版の予定があるというではないか。
 たしか1ヵ月か2ヵ月で新刊を手にした。7千円。普通の小説本よりは高いけれど、3万円よりはずっと安い。その日から付箋を貼りながら読み始めた。この作品はジュネの晩年に書かれたもので、『シャティーラの四時間』とならんで、パレスチナを描いたすぐれた文学だ。
 ただ、ほかのジュネの作品と同じく、なかなか読むのが難しい。分かりにくいのではない。彼に固有の詩的な文章に慣れるための時間がかかるのだ。でも、慣れてしまえば、この力作に圧倒される。
 僕はジュネの導きでパレスチナ問題について考えるようになった。そして、眼につく本があると手にとるようになった。そのうちの一冊が、ジョー・サッコの『パレスチナ』だった。 続きを読む

維新「二重報酬」のスジ悪さ―まだまだ続く不祥事

ライター
松田 明

日本維新の会 藤田幹事長

税理士で党の会計監査人

 ほとんど数日おき、酷いときは同じ日に何件も重なって不祥事が発覚する日本維新の会。正直、あまりにも多過ぎてコラムを書く筆が追い付かないので困っている。
 9月18日、毎日新聞が衝撃のスクープを報じた。日本維新の会の池下卓衆院議員(大阪10区)が、選挙区である地元・高槻市議だった2人を市議任期中に公設秘書として採用していたのだ。
 2人は市議としての報酬と公設秘書としての給与を二重に受け取っていた。どちらも原資は税金である。
 池下卓氏はもともと税理士。2011年の大阪府議会議員選挙に大阪維新の会から出馬して当選。府議を3期務め、2021年10月の衆議院選挙で立憲民主党の辻本清美氏らを破って初当選した。日本維新の会の会計監査人を務めている。
 だが池下議員をめぐっては2022年1月、地元事務所を自身の父親から無償提供されながら、少なくとも2018年から20年までの3年間も政治資金収支報告書に記載しておらず、政治資金規正法違反(不記載)の疑いがあると朝日新聞や週刊文春に報じられていた。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第25回 偏円②

(3)偏・円を明かす

 十広の第五「偏・円」は五段に分けられているが、偏・円を明らかにする第三段では、偏という概念の範囲が広く、小乗から大乗までの広い範囲に適用されることを述べている。結論としては、三蔵教の析法(しゃくほう)の止観から別教の止観までをことごとく偏と規定し、円教の止観の一心三諦だけを随自意の語であるという理由から円とするのである。したがって、偏円の区別は、大小、半満(半字は小乗、満字は大乗をそれぞれ指す)の区別と一致しないので注意を要する。

(4)漸・頓を明かす①

 この段は、さらに細かく項を分けていないが、理解しやすいように、いくつかの項に分けて説明する。 続きを読む