芥川賞を読む 第34回『蛇にピアス』金原ひとみ

文筆家
水上修一

身体改造にかける夢の傷ましさを描く

金原ひとみ(かねはら・ひとみ)著/第130回芥川賞受賞作(2003年下半期)

19歳と20歳の女性作家のW受賞に沸く

 第130回の芥川賞は、世間を大いに賑わせた。何しろ19歳の綿矢りさと20歳の金原ひとみという超若手二人のW受賞となったのだから。19歳という最年少記録はいまだに破られていない。ちなみに164回の「推し、燃ゆ」で受賞した宇佐見りんは21歳、石原慎太郎、大江健三郎、丸山健二、平野啓一郎なども早くに受賞したが、それでもみんな23歳だった。
 文章を書く、物語を作る、人間を描くという作業は、絵画や音楽など他の芸術よりもさらに多くの人生経験や熟練の筆力が必要となるからだろうか、芥川賞受賞時の年齢は、30代40代がもっとも多く、人生経験も浅い10代での受賞というのは本当にすごいことだと思う。
 金原ひとみの「蛇にピアス」は、ピアスや刺青、そして舌先に切り込みを入れて二股にするスプリットタンなどの身体改造に惹かれのめり込んでいく10代の女性を描いている。
 痛みに耐えながら自らの体を傷つける行為はなぜ生まれるのか、興味のない人間には全く理解不能の行為にしか思えないのだが、リアルな描写で描かれる「蛇にピアス」を読んでいると、そうした行為に及ぶ者たちの心情や心理をおぼろげながら感じることができた。つまり、どこから湧き上がってくるのかは分からないけれども、心の痛みとしか言いようのないものを肉体的な痛みに転嫁することによって、日々なんとか生き永らえているという、余りにも痛々しい姿が浮かび上がってくるのだ。 続きを読む

世界はなぜ「池田大作」を評価するのか――第4回 「言葉の力」と開かれた精神

ライター
青山樹人

世界桂冠詩人の「言葉の力」

――1月1日に発生した能登半島地震は、甚大な被害をもたらしています。自衛隊や海上保安庁、警察、消防などに加え、災害派遣医療チームDMAT、各種の人道支援NGO、宗教団体などが、救援活動に動いています。

青山樹人 被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。創価学会も発災後ただちに原田会長を本部長とする災害対策本部を設置しました。
 大地震のような大規模災害現場では、市区町村などの自治体や消防・警察なども被災の当事者になり、マンパワー的にもできることが限られてしまいます。また、とくに発災の初動では地元の住民でなければ掌握できないことも多々あります。
 大規模災害時にいくつかの宗教団体が有効に機能するのは、地域にある寺院や会館などの拠点を中心に、日ごろから信徒のコミュニティが形成されていること。全国に教団のネットワークがあって、他地域からの救援物資や人員の供給が可能なことなどが挙げられるでしょう。「いのち」に対して敏感であるということも大きいと思います。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第36回 方便⑦

[3]具五縁について⑤

「衣食具足」について

 次に、具五縁の第二「衣食具足(えじきぐそく)」について考察する。まず、衣食について、

 第二に衣食具足とは、衣を以て形を蔽(おお)い、醜陋(しゅうる)を遮障(しゃしょう)し、食は以て命を支え、彼の飢瘡(きそう)を塡(ふさ)ぐ。身は安からば、道は隆(さか)んにして、道は隆んならば、則ち本は立つ。形、命、及び道は、此の衣食に頼る、故に云わく、「如来は食し已って、阿耨三菩提を得」と。此れは小縁なりと雖も、能く大事を辦ず。裸にして餒(ひだる)く安からざれば、道法は焉(いずく)んぞ在らん。故に衣食の具足を須(もち)ゆるなり。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅱ)、435~436頁)

と述べている。衣と食を備えることは、衣はそれで身体を覆い隠し、醜く卑しいものを遮り妨げ、食はそれで命を支え、飢えや傷をふさぐ。身が安らかであれば道は隆んとなり、道が隆んとなれば根本が確立する。身体、命、道は、この衣と食に頼っている。衣食を備えることは、小さな条件であるが、大事を実現することができる。裸で飢えて安からでなければ、道法はどうして存在するであろうかと指摘している。衣服は身体を守り、食物は生命を支えるものであり、この衣食によって身体、生命の安全が保たれることによってはじめて、仏道の興隆も可能となることを指摘したものである。
 この段は、衣を解釈する段と食を解釈する段の二段に分かれている。順に紹介する。 続きを読む

連載エッセー「本の楽園」 第177回 僕の漫画史

作家
村上政彦

 いちばん最初に読んだ漫画は、むかし暮らしていた長屋の、ご近所さんの二階にあった漫画雑誌だったとおもう。まだ小学校にあがるまえだが、なぜか、短篇漫画のストーリーをいくつか憶えている。
 僕は、けして物覚えのいいほうではないので、よほど深い印象があったのだろう。けれど、内容は教訓的な説話風のもので、強い衝撃を受けたわけではないから、どうして覚えているのかわからない。
 やわらかい明かりの電灯の下、大人たちが難しい話をしていて、子供の僕は階段の上り口に近い薄暗い隅のほうで、その家の主が貸してくれた漫画雑誌をひっそり読んでいた。それがその家へ行く愉しみだった。
 自分で漫画を買うようになったのは、小学生になってからだ。当時、『少年マガジン』『少年ジャンプ』『少年サンデー』『少年キング』『少年チャンピオン』と、週刊の漫画雑誌があって、月刊では、『ぼくら』『冒険王』があった。僕は、すべてを買って読んでいた。
 高学年になって、『ガロ』を知った。この雑誌は僕の御用達の本屋には、置いてあったり、なかったりして、なかなか手に入れるのが難しかった。内容は、それまで僕が読んでいた少年誌と違って、かなり大人な世界が描かれていた。だから、恐る恐る手を伸ばし、ページを開いた。 続きを読む

災害に便乗する政治家たち――悪質な扇動と迷惑行為

ライター
松田 明

元日の能登半島を襲った地震

 元日に発生した最大震度7の「令和6年能登半島地震」は、能登半島の一帯に壊滅的な被害をもたらしている。石川県によると11日午前9時時点で県内の死者数は213人となり、安否不明者も依然52人いるとしている。
 能登半島は能登山地や多数の段丘から成っており、低平地が非常に乏しい。従来から日本でも有数の交通の難所であった。
 今回の地震では、もともと限られていた道路が各地で崩落・寸断されたうえ、海岸線も隆起して多数の港湾が使用不能になっている。発災直後に日没を迎えたことに加え、電気や通信網が寸断された地域も多く、被害状況の把握を困難にしてきた。
 政府は地震発生(16時10分)の1分後には首相官邸の危機管理センターに官邸対策室を設置。岸田首相は16時15分に、情報提供や被害状況の把握などの「総理指示」を発出した。 続きを読む