10代のころ、詩らしきものを書いていた。好きな詩人は、立原道造、中原中也。立原の詩は、いまでも好きな一節を暗唱できる。あるスーパーマーケットでごみ処理のアルバイトをしていたとき、小雨の降るなか、ごみを運ぶトラックが来るのを待つあいだ、その詩を口ずさんでいた。いつかプロの文筆家になったら、このことを書いてやろうとおもったことを、はっきりと憶えている(ついに書きました!)。
ここでその詩を引きたいところだけれど、とりあげる本が詩人・石垣りんの『朝のあかり』というエッセイ集なので、やめておく。
率直に言うと、その当時、僕は石垣りんを読んだことがなかった。いまや日本を代表する詩人のひとり。でも、僕は読んだことがなかった。名前は知っていたとおもう。そのころ『現代詩手帖』という現代詩の専門誌を読んでいたので、見かけたことはあったはずだ。
それが読んだことがないというのは、つまり、関心が持てなかったわけだろう。僕は、立原道造や中原中也の抒情に魅せられていて、自分もそういう詩を書いていた。石垣りんの詩は、彼らの抒情詩とはちがう。 続きを読む
