首相「所得税減税」を指示――公明党の提言受け入れる

ライター
松田 明

 岸田首相は10月20日、税収の増加分の一部を国民に還元するため期限付きの所得税減税を検討するよう指示した。
 これに先立つ10月17日午後、公明党の高木陽介・政調会長らは首相官邸に岸田首相を訪ね、政府の総合経済対策に盛り込む内容を提言していた。
 同日、自民党からも提言が出されており、これらを受けて首相は政府案を検討。与党に示したうえで11月2日に閣議決定する予定だ。
 今、世界全体で半世紀ぶりといわれるような物価高騰が続いている。アジアでは2020年初頭から物価が上昇傾向を強め、2021年初頭から欧米などでその傾向が顕著になっていることを考えると、要因はウクライナ侵攻ではなく、むしろパンデミックの影響が指摘されている。
 日本に関しては、燃料はじめ多くを輸入に頼っていることから円安の影響が大きく、加えて労働力不足が深刻だ。パンデミック後に各国で経済活動が一気に再開すると、鋼鉄など建築資材が高騰している。 続きを読む

書評『J・S・ミル』――自由と多様性を擁護した哲学者の思想と生涯

ライター
小林芳雄

「精神の危機」を乗り越えて

 本書は、経済学者・哲学者として知られるジョン・スチュアート・ミル(1806~1873年)の評伝である。前半は『自伝』にもとづき思想の形成過程をたどり、後半は代表的な著作を読み解く。道徳と政治を中心にミルの思想を解説した入門書である。
 ミルは9人兄妹の長子として誕生した。父ジェイムスは「最大多数の最大幸福」という言葉で有名な哲学者・ジェレミー・ベンサムの思想的盟友であった。彼は初めての子どもに大きな期待を寄せ、ミルを同世代の子どもから引き離し学校にも通わせず、ベンサム主義による独自の英才教育を施した。ミルもその期待によく応え、若き知識人へと成長する。さらに18才で東インド会社に就職し経済的基盤をも確立する。

この過程を把握しておくことは、ミルの成熟期の代表的著作群を理解する上で欠かせない。苦闘の結果ばかりでなく、苦闘という経験それ自体の持つ意義が成熟期の思想の内容に反映しているから、なおさらのことである。(本書49~50ページ)

 だが20才に差掛かった頃に「精神の危機」がおとずれる。ベンサム主義は利己的人間観に基礎をおいている。その哲学による教育を受けたミルだったが、あるとき「これまで取り組んできた社会活動の目標が達成されたとしても、自分は幸福ではない」また「自分は父の教育が作り出した推論する機械で、その性格は変えることはできない」という疑念が襲い、人生の目的を見失い極度の無気力状態におちいる。こうした状態は約6年続いたという。 続きを読む

『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第27回 偏円④

(5)権・実を明かす①

 この段は、釈名(しゃくみょう)と料簡の二段からなる。釈名の冒頭には、権実の意味と、権と実との関係について説いている。すなわち、

 五に権実を明かすとは、権は是れ権謀(ごんぼう)、暫(しばら)く用いて、還(ま)た廃す。実は是れ実録、究竟の旨帰(しき)なり。権を立つるに、略して三意と為す。一に実の為めに権を施す。二に権を開きて実を顕わす。三に権を廃して実を顕わす。『法華』の中の蓮華の三譬の如し、云云。諸仏は即ち一大事を以て出世す。元(も)と、円頓一実の止観の為めに、三権の止観を施すなり。権は本意に非ざれども、意も亦た権の外に在らず。秖(た)だ三権の止観を開きて、円頓一実の止観を顕わすなり。実の為めに権を施すに、実は今已に立てり。権を開きて実を顕わせば、権は即ち是れ実にして、権の論ず可きもの無し。是の故に、権を廃して実を顕わすに、権は廃して実は存す。暫く釈名を用うるに、其の義は允(まこと)と為す。(第三文明選書『摩訶止観』(Ⅱ)354~356頁予定)(※1)

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維新の不祥事は平常運転――横領、性的暴行、除名、離党

ライター
松田 明

候補者から45万円を受領

 NHKの月例の世論調査で、5月以来、立憲民主党を抜く状態が続いてきた日本維新の会の支持率が、10月になって立憲民主党を下回った。連日のように噴出する日本維新の会の不祥事が知れ渡り、バブルも冷めてきたのだろうか。
 その日本維新の会、あいかわらず不祥事のニュースが多過ぎてあきれる。

 9月21日――
 日本維新の会の上野蛍・元富山市議が21日、富山市内で記者会見を開いた。
 今年4月の県会議員選挙で、上野氏は日本維新の会の公認候補・福島陽介氏(落選)の選対本部長を務めた。その際、上野氏は福島氏から現金45万円を受け取っており、公職選挙法違反の疑いで富山地検に告発されていたのだ。

 4月の富山県議選を巡り、日本維新の会の上野蛍・元富山市議が公認候補に現金を要求し、計45万円を受け取っていたことが富山維新の会の調査でわかった。(「読売新聞オンライン」9月9日

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書評『創学研究Ⅱ――日蓮大聖人論』――創価学会の日蓮本仏論を考える

ライター
本房 歩

世界宗教化と日蓮本仏論

 創学研究所(松岡幹夫所長)から『創学研究Ⅱ――日蓮大聖人論』(第三文明社)が刊行された。
 創学とは「創価信仰学」のこと。創学研究所は、創価学会の信仰に基づいた学問的な研究をめざし松岡所長が個人として設立した。言うなれば創価信仰学とは創価学会にかかわる「神学」であり、その意味では学問としての仏教学や宗教学とはアプローチがまったく異なる。概略は『創学研究Ⅰ』(2022年刊)の書評(「書評『創学研究Ⅰ』)を参照していただければ幸いである。
 松岡所長は今回の『創学研究Ⅱ』の「発刊の辞」のなかで、創価学会の信仰には三つの柱があると思うとし、御書根本、日蓮大聖人直結、御本尊根本を挙げている。
 そして、『創学研究Ⅰ』では一つ目の御書根本の視点から現代の仏教学や宗教学の見解、近代以降の日蓮研究の成果を論じたのに対し、今回の『創学研究Ⅱ』は日蓮大聖人直結の信仰に立って、現代の学問的な日蓮論をどう解釈すべきかを論じたと綴っている。
 創価学会は、会の最高法規である「会憲」のなかで「教義」として、

この会は、日蓮大聖人を末法の御本仏と仰ぎ、根本の法である南無妙法蓮華経を具現された三大秘法を信じ、御本尊に自行化他にわたる題目を唱え、御書根本に、各人が人間革命を成就し、日蓮大聖人の御遺命である世界広宣流布を実現することを大願とする。(「創価学会会憲」第1章 第2条

と明記している。
 今や創価学会は世界192カ国・地域に広がり、世界宗教化の段階に入った。遠からず日本の会員数よりも諸外国の会員数のほうが多くなる時代も視野に入れ、この「日蓮本仏論」をどのように捉え表現していくべきなのかという議論は不可避であろう。
 もとより、教団の「教学」としての内実は教団内部で議論し決定することではあるが、創学研究所のような教団外部の存在が受け皿となって、一級の知性たちと闊達な議論を交わしていくことはきわめて有益であり健全なことだと思う。 続きを読む