『摩訶止観』入門

創価大学大学院教授・公益財団法人東洋哲学研究所副所長
菅野博史

第34回 方便⑤

[3]具五縁について③

(4)懺浄を明かす①

 具五縁の第一「持戒清浄」の四段のうち、第四の懺浄(さんじょう。戒を犯した罪を懺悔して、清浄に戒を持つこと)を明らかにする段落の冒頭には、事戒と理戒を犯すと、止観を妨げて、禅定・智慧を生じないので、どのように懺悔するかが重要であることを指摘し、その後、懺悔して罪を滅する方法について詳しく説いている。懺悔については、事戒を犯した場合の懺悔は事懺(じせん)といわれ、理戒を犯した場合の懺悔は理懺(りせん)といわれる。
 まず、事戒について軽罪を犯した場合は、小乗にも懺法(せんぼう。懺悔して罪が許される方法)があるが、重罪を犯した場合は、仏法の死人というべきものであり、小乗には懺法がなく、大乗だけがその懺悔を許可するといわれる。この場合は四種三昧によると記されている(※1)。これが事懺と呼ばれるものである。
 理戒(観心の持戒)のなかの軽罪・重罪を犯すことは、『摩訶止観』の本文では、理觀が誤っている程度が軽い場合と重い場合に分けて、次のように説明している。 続きを読む

世界はなぜ「池田大作」を評価するのか――第1回 逝去と創価学会の今後

ライター
青山樹人

 第三文明社の創業者であった池田大作・創価学会名誉会長が2023年11月15日に逝去されました。訃報は世界各国に速報され、中国の習近平国家主席が岸田首相宛に弔電を送るなど、各国の要人や駐日大使、国際機関、学識者などから、弔意と功績への賛辞が今なお寄せられています。
 一民間人である池田名誉会長に対し、世界の各方面からこれほどの弔意と賛辞が寄せられたことに対し、日本国内での偏向した言説との落差に驚いた人も多かったようです。
 世界は池田名誉会長をどう見てきたのか。日本社会は何を見落としているのか。それを検証する連続企画として、『新版 宗教はだれのものか 三代会長が開いた世界宗教への道』などの著作を出してきた青山樹人氏に、池田名誉会長の歩みを踏まえながら語っていただくことにしました。(WEB第三文明編集部:文中敬称略)
続きを読む

自民党は厳しい覚悟で自浄作用を――政治は一刻の遅滞も許されない

ライター
松田 明

「強制捜査」の衝撃

 12月19日、東京地検特捜部は政治資金規正法違反の疑いで強制捜査に着手。自民党安倍派「清和政策研究会」事務所と二階派「志帥会」の事務所をそれぞれ捜索した。
 このうち安倍派については、政治資金集めのパーティー券を販売した際、議員へのノルマを超えた分の収入を派閥側が政治資金収支報告書に記載せず、しかも支出としても記載しないまま議員側にキックバック。さらに議員側の政治団体でも受け取ったキックバック分を政治資金収支報告書に記載していなかったとされる。その額は過去5年間だけで総額5億円になるという。
 また二階派でも派閥の収入として過少記載(虚偽記載)していた疑いがあり、総額は過去5年間で1億円に上ると報じられている。 続きを読む

書評『頭じゃロシアはわからない』――諺を柱にロシアの実像を伝える

ライター
小林芳雄

諺から見える文化の違い

 著者の小林和男氏はNHKでモスクワ支局長を2度務めた経験を持つ。解説主幹などを経て、現在はフリージャーナリストとして活躍している。『エルミタージュの緞帳』(NHK出版)などの著者としても知られているだけでなく、日本とロシアの文化交流にも尽力し、半世紀以上に渡ってロシアを見つめ続けてきた。
 表題は19世紀末のロシア帝国の外交官で詩人のフョードル・チュッチェフの有名な四行詩「頭じゃロシアはわからない/並みの尺度じゃ測れない/その身の丈は特別で/信じることができるだけ」の冒頭から採られたもの。ウクライナ危機以後、諺が好きなロシア人がどんな諺を口にしているのか調べたところ、多くの人がこの言葉を口にしているという。
 本書は102の諺を中心に、著者がこれまでに出会った人物や出来事を綴ったエッセイ集である。生活に根差した諺というレンズを通して、日本人にはますます「理解しにくい国」とされつつあるロシアの等身大の姿を伝えようとするものだ。内容はインタヴューした政治家や文化人に関するものから、歴史、芸術、食文化、果てはペット事情など多岐にわたっている。心が温かくなるような楽しいものもあれば、ソ連時代の背筋が寒くなるようなものあるが、すべて著者の経験したことであるという。興味深いエピソードを読み進めていくうちにロシアの独特の価値観、多様で奥深い文化が浮かび上がってくる。 続きを読む

芥川賞を読む 第32回『しょっぱいドライブ』大道珠貴

文筆家
水上修一

危うく微妙で不思議な男女の人間関係を描く

大道珠貴(だいどう・たまき)著/第128回芥川賞受賞作(2002年下半期)

しょぼい初老の男と冴えない30代女性の不思議な関係

「小説」というくらいだから必ずしも大そうな話である必要はない。ただ少なくとも心揺さぶられる感覚や多少のカタルシスはほしいと思うのだが、ところが芥川賞にはそうしたものは必ずしも必要なく、むしろ書き手の上手さのほうが重要なのだろう。
 第128回芥川賞の受賞作は、大道珠貴の『しょっぱいドライブ』だった。『文學界』に掲載された91枚の作品。
 肉体的にも人格的にも頼りなく魅力もない、ただお金だけは持っているしょぼい六十代の九十九(つくも)さんと、地方劇団のスターに憧れながらもまともに相手をされない、これまた冴えない三十代の「わたし」の微妙な関係を実に丹念に描いている。 続きを読む