高校生の微妙で微細な人間関係の揺れと痛みを描く
綿矢りさ(わたや・りさ)著/第130回芥川賞受賞作(2003年下半期)
まだ破られていない史上最年少受賞
綿矢りさは、17歳の高校時代に初めて書いた小説「インストール」が文藝賞を受賞して、19歳の早稲田大学在籍中に書き上げた2作目「蹴りたい背中」が芥川賞を受賞。それ以降まだ芥川賞受賞の最年少記録は破られていない。
第130回の芥川賞は、前回紹介した金原ひとみの「蛇にピアス」とこの「蹴りたい背中」がW受賞し、若い女性2人のW受賞は世間を大いに賑わせた。しかも、授賞式での二人の風貌は、金原ひとみが茶髪に黒いミニスカートと黒いニーハイソックス姿、綿矢りさは黒髪に膝下スカートとカーディガンという、その作風を彷彿とさせる対称的なものだったので、なお一層注目を集めた。
「蹴りたい背中」の舞台は高校生活。上っ面の人間関係構築にエネルギーを割くことに背を向けた女子高生「私」の、周囲に馴染むことへの反発の中で感じる孤立の痛みと恐れは、多くの思春期の子どもたちに多かれ少なかれ共通する感覚だろう。クラスの中でもう一人の浮いた存在が、ある特定のアイドルに異様な執着を見せるオタク男子の「にな川」だ。ある出来事をきっかけとして、まったくタイプの異なる2人が不思議な距離感の中でつながっていく。 続きを読む